不動産で相続税対策ができる3つの理由と注意すべき5つのポイント
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【損をしないための贈与税ガイドブック】

相続税の支払いは、財産が多いほど負担が大きくなります。「せっかく築き上げた財産を、多額の相続税で減らしたくない」と考える方も多いのではないでしょうか。実は、相続税対策として「不動産」を活用する方法が注目されています。現金を不動産に換えることで、大きな節税効果が期待できる可能性があるのです。

しかし、「なぜ不動産だと節税になるの?」「具体的にどうすればいいの?」「リスクはないの?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

この記事では、初めて相続税対策を検討される方向けに、不動産が相続税対策に有効な理由や具体的な活用方法、そして知っておくべき注意点まで、分かりやすく丁寧に解説します。不動産は大きな金額が動くため不安に感じるかもしれませんが、仕組みを理解し、計画的に進めることが大切です。

目次

  1. まず知っておきたい相続税の基本
  2. 不動産が相続税評価額を下げる3つの理由
  3. 相続税対策に使える不動産の活用方法4つ
  4. 不動産を使った相続税対策で気をつけたい5つの注意点
  5. まとめ

まず知っておきたい相続税の基本

相続が発生すると、亡くなった方(被相続人)が所有していた預貯金、株式、不動産など、すべての財産が相続財産となります。この相続財産にかかるのが相続税です。

ただし、相続税はすべての相続財産にかかるわけではありません。相続財産の総額が一定の金額(基礎控除額)を超えた場合に、その超えた部分に対して課税されます。基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」という計算式で求められます。例えば、法定相続人が2人であれば、基礎控除額は4,200万円(3,000万円+600万円×2)となります。

相続税の税率は、課税対象となる財産の額が高くなるほど税率が上がる累進課税という仕組みです。つまり、相続財産が多ければ多いほど、相続税の負担も重くなるということです。

相続税対策とは、この相続税の負担を少しでも減らすための工夫全般を指します。そして、その有力な手段の一つとして「不動産の活用」があるのです。

不動産が相続税評価額を下げる3つの理由

なぜ現金を不動産に換えると相続税対策になるのでしょうか? その主な理由は、相続税を計算する際の「財産の評価方法」にあります。特に不動産は、他の財産と比較して相続税評価額が低くなる傾向にあるため、節税効果が期待できるのです。

1.現金を不動産にしておくと相続税の評価額が下がる

現金は、相続が発生した時点で「額面通り」に評価されます。例えば、1億円の現金があれば、相続税の計算上もそのまま1億円として扱われます。評価額が下がることはありません。一方、現金で不動産を購入した場合、その不動産の相続税評価額は、一般的に実勢価格(市場での売買価格)よりも低く評価されるのが通例です。

  • 土地の評価
    主に国が定めた「路線価」に基づいて評価されます。路線価は、実勢価格の約8割程度を目安に設定されています。

  • 建物の評価
    主に自治体が定めた「固定資産税評価額」に基づいて評価されます。固定資産税評価額は、建築費の約5〜7割程度が目安とされています。

これらの評価方法によって、不動産の相続税評価額は実勢価格の2割〜3割程度低くなることが珍しくありません。

例えば、1億円の現金で時価1億円のマンションを購入したとします。現金なら相続税評価額は1億円ですが、マンションとして評価されると、評価額が7,000万円程度にまで下がる可能性があります。このように、同じ価値を持つ財産でも、現金から不動産に変わるだけで、相続税の計算上の評価額を圧縮することができるのです。

2.土地に建物があるとさまざまな特例が適用できる

土地だけ(更地)で所有している場合、その土地の評価額は路線価に基づいた評価額がそのまま適用されます。しかし、その土地に建物を建てて人に貸したり(賃貸経営)、自分で住んだりすると、相続税の評価額をさらに引き下げるための特別な制度が適用される場合があります。代表的な特例をいくつかご紹介します。

・貸家建付地
土地に賃貸住宅(住居)が建っていると、その土地は「貸家建付地」になります。相続をする方にとって、人が住んでいる土地は自分の自由にできない部分が多いため、そのことを考慮した不動産の評価方法が適用されます。

エリアによって評価額が違ってきますが、例えば借地権割合が60%・借家権30%であれば、更地の評価分から18%分(0.6×0.3)が減額され、不動産評価額は82%となります。

参考:国税庁 No.4614 貸家建付地の評価

・小規模宅地の特例
もともとは、遺族が相続税支払いのために今までの住処や土地を手放すことを回避するための特例です。

亡くなった方と同居していたマイホームの相続には、被相続人(亡くなった方)の配偶者・同居親族・別居親族の範囲内であれば、土地の評価額を330平方メートルまで80%も減らせる「小規模宅地等の特例」が使えます。

参考:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例

・住宅用地の特例
土地に人が住むための家が建っていると、それが空き家であっても住宅用地の特例が適用されます。

住宅用地の特例は更地の場合と比べて固定資産税が6分の1にまで下がります。固定資産税は相続をした方に支払い義務があるため、土地には住居があるほうが負担としては軽くなります。

参考:東京都主税局 住宅用地の特例

3.不動産活用の借金は相続評価額からマイナスされる

現金資産が多い方が、相続税対策として不動産(土地や建物)を購入したり、所有する土地にアパートやマンションを建てて賃貸経営を始めたりする場合、金融機関からの借入(ローン)を利用することが一般的です。

相続税の計算において、亡くなった方(被相続人)に借入金や未払いの税金などがある場合、それらの「債務(マイナスの財産)」は相続財産総額から差し引くことができます。これを債務控除といいます。

例えば、3億円のマンションを建てるために金融機関から3億円の融資を受けた場合、その3億円の借入金は、相続発生時に残っている分だけ、相続財産から差し引かれます。

相続財産:預貯金1億円 + 賃貸マンション(評価額2億円と仮定)

債務:借入金残高3億円

課税対象額:(1億円 + 2億円) - 3億円 = 0円

このように、不動産取得のための借入金は、相続税計算上マイナスの財産として扱われるため、相続財産全体の評価額を大きく圧縮し、結果として相続税の負担を軽減する効果が期待できます。

ただし、この債務控除が相続税対策として有効に働くためには、いくつか注意点があります。特に、賃貸経営のための借入金については、相続発生の直前に多額の借入を行って不動産を購入した場合など、租税回避(税金を不当に逃れること)を目的としたとみなされる場合には、債務控除が認められないケースがあるため注意が必要です。不動産を活用した借入金による対策を検討する際は、必ず専門家(税理士)に相談し、適切な方法で行うことが不可欠です。

相続税対策に使える不動産の活用方法4つ

不動産を活用した相続税対策には、いくつかの具体的な方法があります。ご自身の状況や財産、目指す方向性に合わせて、最適な方法を選ぶことが重要です。また、節税だけでなく、将来的にその不動産を引き継ぐご家族が困らないように、長期的な視点で検討することが大切です。

本章では、大きな節税効果が期待できる主な不動産の活用方法を4つ紹介します。

1.所有する土地に賃貸物件を建てる

すでに相続税対策の対象となる土地を所有しているのであれば、その土地の上にアパートやマンションなどの賃貸物件を建てて賃貸経営をスタートします。

土地に賃貸物件を建てることで、前述の「貸家建付地」としての評価減や、固定資産税の軽減(住宅用地の特例)といったメリットが得られます。

さらに、家賃収入という安定した収益も期待できます。相続時には、建物部分も固定資産税評価額で評価されるため、現金で持つよりも評価額が圧縮されます。

ただし、この方法を成功させるためには、その土地が賃貸経営に適しているかどうかが非常に重要です。もし所有地が駅から遠い、周辺に生活施設が少ないなど、賃貸ニーズが低いエリアであれば、空室が増えたり、家賃を下げざるを得なくなったりするリスクが高まります。

賃貸経営は、20~30年の長期で利益が出るタイプのビジネスモデルです。そのため経営赤字が続けば相続人に大きな負担がかかり、最終的には相続で得た不動産を手放してしまう可能性もあります。

所有地での賃貸経営を検討する際は、必ず不動産のプロによる市場調査を行い、その土地の特性やエリアの賃貸需要をしっかりと把握した上で、需要に合った建物を計画することが成功の鍵となります。

2.土地を買ってから賃貸物件を建てる

現金の資産が多く、所有している土地が賃貸経営に適していない場合や、そもそも土地を所有していない場合は、賃貸経営に適した土地を購入し、そこに賃貸物件を建築する方法もあります。

賃貸経営に適した土地とは一般的に、都心部や主要駅からのアクセスが良いエリア、大学や病院、企業の近くなど、一定の賃貸需要が見込める場所です。

このような土地は購入費用が高くなる傾向がありますが、その分、高い家賃設定が可能で、空室リスクも比較的低く抑えられるため、長期にわたって安定した家賃収入が期待できます。

この方法でも、土地の評価減(貸家建付地)や建物の評価減、そして建築費用のための借入金による債務控除といった、不動産を活用した相続税対策のメリットを享受できます。賃貸事業を前提として土地・建物を購入・建築する場合、金融機関からの融資も比較的受けやすくなります。

ただし、良い土地を見つけるには時間がかかり、建築プランの検討なども必要になるため、計画から実行までにある程度の期間を要します。また、賃貸経営自体のリスク(空室、家賃滞納など)も当然伴います。

3.現金で賃貸物件を買う(土地付き)

土地を購入して建物を建てるのは時間も労力もかかるし、賃貸経営そのものにあまり手間をかけたくない、という方もいらっしゃるでしょう。また、将来の相続人が賃貸経営を引き継ぐことに乗り気ではないケースもあります。

このような場合は、すでに建っている賃貸物件(アパート一棟、マンション一室など)を現金で購入する方法も選択肢の一つです。

現金で購入すれば、建築の手間や時間がかからないだけでなく、金融機関からの借入がないため利息の支払いが発生せず、賃貸経営の収益性が高まるというメリットがあります。また、売主が現金での即時決済を希望している場合は、価格交渉がしやすくなる可能性もあります。

相続税対策としては、借入金による債務控除のメリットは得られませんが、現金が不動産に変わることで相続税評価額は圧縮されます(実勢価格より評価が低くなる)。また、その物件を賃貸に出していれば、貸家建付地や貸家(建物)としての評価減も適用され、一定の節税効果は期待できます。

この方法の大きなメリットは、相続が発生した後、相続人がその物件をどうするか(自分で使う、売却する、賃貸経営を続けるなど)の選択肢が広がりやすい点です。ローンがないため、相続人がローン返済に追われる心配がありません。

ただし、多額の現金を一気に不動産に投じることになるため、相続税の納税資金として必要な現金を確保しておくことは非常に重要です。不動産は現金化しにくい側面があるため、納税のために慌てて売却することにならないよう、事前に相続税額のシミュレーションを行い、納税資金を計画しておく必要があります。この方法を検討する際も、必ず税理士に相談しましょう。

4.不動産小口化商品を所有する

「不動産に興味はあるけれど、一棟アパートやマンションを購入するには金額が大きすぎる」「遺産分割が難しくなりそう」といった不安がある方には、「不動産小口化商品」が有効な選択肢となります。

不動産小口化商品とは、都心の一等地にある大規模なオフィスビルや商業施設、賃貸マンションなどを数百万~数千万円といった単位で小口化し、複数の投資家が共同で所有する仕組みです。

購入すると、投資家はその不動産の「持ち分」を所有することになります。その不動産は専門の会社によって賃貸運用され、得られた家賃収入などが、持ち分に応じて投資家に分配されます。これにより、個人でも実質的に高額不動産のオーナーとなり、賃貸経営による収益を得ることができます。

令和6年より贈与と相続の計算方法が変更され、今までのような生前贈与による節税が難しくなったため、小口化した不動産を活用した相続税対策が注目されるようになりました。不動産小口化商品のメリットは、通常の不動産と同様に、相続税評価額が実勢価格よりも低く評価される点です。また、賃貸物件であるため、土地部分については貸家建付地の評価減、建物部分についても貸家の評価減が適用され、節税効果が期待できます。

さらに、不動産小口化商品は、1口単位での売買が可能です。従来の不動産のように「この土地を誰が相続するか」といった遺産分割の難しさが緩和されます。例えば、複数の相続人がいる場合でも、口数で均等に分けやすくなります。また、必要に応じて一部の口数だけを売却して現金化し、納税資金に充てることも可能です。

不動産小口化商品で取り扱われる都心部好立地のオフィスビルや建物は、不動産としては破格の時価になることが多いため、不動産価格が上昇している時代であれば大きな節税メリットを期待できるでしょう。

不動産を使った相続税対策で気をつけたい5つの注意点

不動産を活用した相続税対策には大きなメリットがありますが、実行する上で注意すべき点もいくつか存在します。これらの注意点を踏まえずに対策を進めてしまうと、かえって将来の負担になったり、期待した節税効果が得られなかったりする可能性がありますので、特に重要な5つの注意点を解説します。

1.活用できない不動産は売却しておく

相続財産の中には、ご自宅や賃貸物件として活用している不動産だけでなく、遠方の使っていない土地や、古い空き家など、今後も活用する予定がない不動産が含まれている場合があります。

・将来、地価が上がるかもしれない
・子どもが結婚して家を建てるときに使うかもしれない
・今の事業が拡張したら、ここに社員寮を建てようかな
・リタイアメント後のセカンドハウスのために

このように考えてそのままにしてしまいがちですが、活用されていない不動産は、毎年固定資産税や都市計画税がかかるだけでなく、管理に手間や費用がかかります。特に古い空き家で適切な管理がされていないと、自治体から「特定空き家」に指定され、固定資産税の軽減措置が解除されて税金が最大で6倍になってしまうリスクもあります(空家等対策の推進に関する特別措置法)。

また、使っていない不動産は、相続が発生した際に評価額を下げる特例が適用できない場合が多く、そのまま相続税の課税対象となってしまうだけでなく、将来的に相続人にとって「負の遺産」となり、維持・管理の負担を押し付けることになりかねません。さらに、誰も活用しない土地や家屋は、相続人間での遺産分割の際にトラブルの原因となることもあります。

相続税対策を検討するタイミングで、現在所有している不動産の中に活用していない、あるいは活用する予定がないものがないかを確認し、もしあれば売却して現金化しておくことを検討しましょう。現金化しておけば、相続税の納税資金として活用できるだけでなく、遺産分割も比較的容易になります。

参考:国土交通省 空家等対策の推進に関する特別措置法

2.賃貸経営は一定期間の実績が必要な場合がある

不動産を賃貸に出すことで評価額が減額される「貸家建付地」や「貸家」としての評価、あるいは賃貸事業のための借入金による債務控除は、相続税対策の大きな柱となります。しかし、これらの評価減や債務控除の適用に関しては、相続税法上のルールが存在します。

特に注意が必要なのが、相続が発生する直前に慌てて不動産を購入したり、建物を建てたりした場合です。例えば、相続発生日から遡って3年以内に新たに賃貸経営を始めた物件に関しては、相続税評価額の計算や債務控除において、期待したほどの評価減が適用されない、あるいは債務控除が認められないといった可能性が指摘されています。これは、税負担を不当に回避するための行為を防ぐ目的があるためです。

ただし、すでに相続発生の3年以上前から事業的規模(おおむね5棟または10室以上など)で不動産経営を行っている方が、事業の拡張として3年以内に新たな物件を取得した場合などは、これらの制限が適用されないケースもあります。

相続税対策は、いつ相続が発生するか予測できない中で行うものです。不動産活用を検討される際は、この「3年ルール」の存在を踏まえ、できるだけ早期に、余裕を持った計画を立てて実行することが非常に重要です。

参考:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例

3.賃貸経営は相続人の意志を確認しておく

不動産、特に賃貸物件は、相続が発生すると相続人に引き継がれます。賃貸経営は、管理会社に委託すればオーナー自身が現場に出ることは少ない「ほったらかし経営」のように見えるかもしれませんが、実際には事業です。賃貸経営には、以下のようなさまざまなリスクが伴います。

空室リスク 入居者が決まらず賃料収入が発生しない
家賃滞納リスク 入居者がいても賃料が発生しない。次の入居者を募集できない
修繕リスク 経年劣化による室内外の修理修繕費が増える
賃料下落リスク 賃料を下げたことにより融資の返済計画に支障が出る
災害リスク 災害による建物の損傷など。特に火事と地震
金利上昇リスク 融資の金利が変わり、返済額が増える可能性

これらのリスクに対応し、賃貸経営を安定的に続けていくには、ある程度の知識や判断力、そして経営者としての責任感が必要です。相続によって突然、これらのリスクと責任を負うことになる相続人が、賃貸経営に全く興味がない、あるいは負担に感じている場合、せっかくの相続財産が重荷になってしまう可能性があります。最悪の場合、管理がおろそかになったり、維持できずに売却せざるを得なくなったりするケースも起こり得ます。

相続税対策として賃貸経営を検討する際は、必ず事前に将来の相続人となるご家族とよく話し合い、彼らが賃貸経営を引き継ぐ意思や覚悟があるかを確認することが非常に重要です。もし引き継ぐ意思がある場合は、生前から経営内容を共有したり、管理に参加させたりして、少しずつ準備を進めておくことも大切です。

4.生前贈与も併せて検討しておく

2023年(令和6年)に法改正があり、生前贈与の課税方式が変わりました。生前贈与には、暦年課税と相続時精算課税の2通りがあります。

  • 暦年課税
    1年間に受けた贈与合計額が基礎控除分(110万円)を超えた場合、超えた部分に対して贈与税がかかるというものです。2023年までは、相続開始前3年以内の贈与に関しては相続財産に加算されて相続税の課税対象とするルールでしたが、これが2024年以降、7年に延長されました。これにより、生前贈与による相続税対策は、より早期から計画的に行う必要が出てきました。

  • 相続時精算課税
    原則として、60歳以上の祖父母・父母から18歳以上の子や孫に生前贈与が行われる場合、贈与者一人に対して2,500万円までが非課税になるという制度です。2024年1月1日以降の贈与からは、今までの2,500万円分の非課税枠のほかに新たに年間110万円までの非課税枠が設けられました。新設された年間110万円までの基礎控除枠は、相続時の精算対象(持ち戻し)になりません。ただし、相続時精算課税を選択した場合は、原則として贈与税の申告が必要です。

一般的に不動産は高額な資産となるため、不動産に関した節税対策には相続時精算課税を選ぶことになるでしょう。生前贈与では、この110万円+2,500万円の枠を超えないように知恵を絞ることが必要です。

ただし、これらの制度は複雑であり、個々の財産状況や家族構成によって最適な方法は異なります。また、不動産の贈与には登記費用や不動産取得税、登録免許税などもかかります。生前贈与を活用した相続税対策を検討する際は、必ず税理士や弁護士といった専門家のアドバイスを受けながら進めることが不可欠です。

5.不動産小口化商品は信頼できる会社から購入する

不動産小口化商品は、手軽に高額不動産に投資でき、相続税対策としても有効な手段です。「不動産特定共同事業法」という法律に基づき運営されており、投資家を保護するための様々な規制が設けられています。このため、制度自体は安全性が高いと言えます。しかし、比較的新しい投資手法であり、情報が少ないと感じる方もいるかもしれません。

不動産小口化商品を取り扱う事業者は多数存在し、その経営方針や財務状況、実績は異なります。安心して任せられる事業者を選ぶことが、投資の成功と相続税対策の効果を確実にするために不可欠です。購入を検討する際は、以下の点をチェックすることをおすすめします。

・企業の規模や実績: 運営歴が長く、過去に多くの不動産を取り扱っているか。
・財務状況: 企業の安定性を確認する(企業のウェブサイトにあるIR情報や財務諸表などを参照)。
・取り扱っている不動産: どのような立地、種類の不動産を取り扱っているか。物件の質は高いか。
・情報開示の姿勢: 投資家に対して、経営状況や物件情報を透明性高く開示しているか。
・担当者の対応: 疑問点に丁寧に答えてくれるか、リスクについても説明があるか。

インターネットでの情報収集だけでなく、事業者が開催するセミナーや個別相談会に参加してみるのも良いでしょう。担当者の雰囲気や、他の参加者の様子なども参考になります。不動産小口化商品もあくまで投資ですので、リスクを理解した上で、信頼できる事業者から、ご自身の状況に合った商品を選ぶことが大切です。

まとめ

現金を不動産に換えることで、相続税評価額を圧縮できること、さらに賃貸経営などを行うことで、さまざまな特例や借入金による債務控除を活用し、より一層の節税効果が期待できることをご理解いただけたかと思います。また、不動産小口化商品のような、比較的少額から始められる方法もあることをご紹介しました。

しかし、不動産を活用した相続税対策には、賃貸経営に伴うリスク、相続人の負担、法改正による影響、そして対策を行うタイミング(3年ルールなど)といった注意点も存在します。特に、活用していない不動産の整理や将来不動産を引き継ぐご家族との話し合いは、円滑な相続のために非常に重要です。

相続税対策は、個々の財産状況、家族構成、そして将来のライフプランによって、最適な方法が異なります。また、税法は改正されることもあります。

「我が家にはどの方法が合っているのだろう?」「具体的にどう進めれば良いの?」といった疑問や不安を感じたら、まずは相続に詳しい税理士や弁護士といった専門家に相談することをおすすめします。専門家は、あなたの状況に合わせて、最適な対策プランを提案し、リスクや注意点を丁寧に説明してくれます。

そして何よりも、相続税対策は「いつかやろう」ではなく、「今すぐ」検討を始めることが大切です。特に不動産活用を伴う対策は、実行までに時間がかかる場合があります。早めに専門家に相談し、計画的に準備を進めることで、大切な財産を次世代にスムーズに引き継ぐことができるでしょう。

凪カヲル
凪カヲル(著者)
ライター、記者。ライター歴30年以上。雑誌メインの紙媒体とウェブで、エンターテインメントから専門分野まで、幅広いジャンルの記事を企画・取材・執筆している。