不動産の相続にはどんな税金がかかる?税額の計算方法も解説!
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【損をしないための贈与税ガイドブック】

不動産は、財産額が大きくなりやすく現金や株式と異なり「画一的な価格がわかりにくい」という理由から、相続の際に不安材料になってしまうこともあります。

場合によっては「不動産のまま相続するのがいいのか」「売却して現金化するほうがいいのか」など合理的な判断が難しいケースもあるかもしれません。

本記事では、不動産を相続した場合にかかる各種税金および相続税の課税方法について紹介します。

あわせて、相続時における不動産の評価方法や不動産の相続時にできる7つの相続税対策について解説します。

この記事でわかること
  • 相続税の計算は、相続財産全体で評価する必要があり、不動産単体では計算できない。
  • 土地は、利用状況や地域によって評価方法が異なる。
  • 小規模宅地等の特例や贈与税の配偶者控除など、相続税を節税するための制度がある。

目次

  1. 不動産を相続するとかかる税金
  2. 相続税を計算する際に必要な2つのこと
  3. 相続税を計算する7つのステップ
  4. 相続税において不動産を評価する方法(土地編)
  5. 相続税において不動産を評価する方法(建物編)
  6. 不動産の相続時にできる7つの相続税対策
  7. 不動産相続における5つの注意点
  8. よくある質問Q&A
  9. まとめ|不動産は金額が大きいため相続の事前準備が重要

不動産を相続するとかかる税金

不動産の相続にはどんな税金がかかる?税額の計算方法も解説
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不動産を相続した場合、以下3つのフェーズでそれぞれに異なった税金がかかります。

取得や売却のフェーズで一時的に発生するものと、所有している限り発生し続けるものがあるため、課税タイミングもあわせて押さえておきましょう。

1.不動産を取得したときにかかる税金

不動産を取得したときにかかる税金は、「相続税」「登録免許税」「不動産取得税」の3つです。

・相続税

相続税は、不動産を相続によって取得した際にかかる税金です。

課税対象は、被相続人(亡くなった人)の財産の総額から基礎控除額を差し引いた残額となります。

基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。

相続税の税率は累進課税が適用され、取得金額が多いほど税率も高くなります。

納税期限は相続開始から10ヵ月以内であり、期限内に申告・納付をしないと延滞税や加算税が発生します。

なお、小規模宅地等の特例や配偶者控除を利用することで、税負担を軽減できる場合があります。

・登録免許税

登録免許税は、不動産の登記手続きをおこなう際に課される税金です。

不動産の登記とは、所有権や抵当権などの権利関係を公的に記録する制度であり、取得時には所有権移転登記をおこなう必要があります。

税額は、不動産の固定資産評価額に一定の税率を掛けて計算されます。

一般的な売買による取得の場合は税率が2%ですが、相続による取得では税率が0.4%と軽減される特例があります。

住宅ローンを利用する際の抵当権設定登記にも登録免許税がかかるため、事前に確認しておくことが重要です。

・不動産取得税

不動産取得税は、不動産を購入・贈与・交換などによって取得した際に課される地方税です。

税額は、取得した不動産の固定資産評価額に税率(原則4%)を掛けて算出されます。

ただし、住宅用地や新築住宅には軽減措置が適用されることが多く、一定の要件を満たせば税率が引き下げられる場合があります。

都道府県から課税通知が送付され、指定された期限内に納付する必要があります。

なお、相続による不動産の取得は課税対象外となるため、売買や贈与とは異なる扱いとなります。

2.不動産所有期間中にかかる税金

不動産所有期間中にかかる税金は、「固定資産税」「都市計画税」の2つです。

2つとも不動産を所有している限り毎年発生し続ける税金です。

・固定資産税

固定資産税は、不動産を所有している限り毎年課される地方税です。

課税対象は土地や建物であり、税額は固定資産評価額に標準税率1.4%(自治体によって異なる)を掛けて算出されます。

毎年1月1日時点の所有者に課税され、市町村から送付される納税通知書に基づいて納めます。

住宅用地には軽減措置があり、小規模住宅用地(200平方メートル以下の部分)は評価額が6分の1に軽減されます。

支払いは年4回の分割払いが可能な自治体もあります。

・都市計画税

都市計画税は、都市計画区域内の不動産所有者に課される地方税で、市町村が都市計画事業や土地区画整理事業の財源として徴収します。

税額は固定資産評価額に税率(上限0.3%)を掛けて算出されます。

固定資産税と同様に、毎年1月1日時点の所有者に課税され、納税通知書に基づいて納めます。

住宅用地については軽減措置があり、小規模住宅用地(200平方メートル以下の部分)の課税標準額は3分の1に軽減されます。

なお、所有している不動産を賃貸して賃料収入を得ている場合は、その不動産所得に対して所得税・住民税・復興特別所得税も毎年かかります。

3.不動産を売却したときにかかる税金

不動産を売却したときにかかる税金は、「所得財」「住民税」「復興特別所得税」の3つです。

3つとも売却のフェーズで一時的に発生する税金です。

・所得税

不動産を売却して譲渡所得が発生した場合、所得税が課されます。

譲渡所得は「売却価格-取得費-譲渡費用-特別控除額」で計算されます。

税率は所有期間によって異なり、5年以下の短期譲渡は30%、5年超の長期譲渡は15%です。

さらに、マイホームの売却では3,000万円の特別控除が適用されることがあります。

確定申告が必要で、申告期限は翌年3月15日です。

税額を抑えるためには、控除や特例の適用を確認することが重要です。

・住民税

不動産売却による譲渡所得には住民税もかかります。

税率は所有期間によって異なり、短期譲渡は9%、長期譲渡は5%です。

所得税と異なり、課税は売却翌年の6月から始まり、通常の住民税と同様に自治体から課税されます。

支払いは4回に分けておこなうか、給与天引きで納めることになります。

マイホームの売却で3,000万円特別控除を適用した場合は、住民税も軽減されるため、所得税と合わせて控除の適用を検討するとよいでしょう。

・復興特別所得税

復興特別所得税は、東日本大震災の復興財源確保のために導入された税金で、2037年まで課されます。

不動産の譲渡所得にかかる所得税額に対して2.1%が上乗せされます。

たとえば、長期譲渡の所得税率15%の場合、実際には「15%×1.021=15.315%」となります。

短期譲渡では同様に「30%×1.021=30.63%」となります。

所得税とともに確定申告時に計算・納付するため、売却時にはこの税負担も考慮しておく必要があります。

相続税を計算する際に必要な2つのこと

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相続税を計算する際に認識しておきたい前提は以下の2つです。

相続対象となっている不動産を「そのまま相続するか」「売却するか」について考える際、以下の前提の認識がないと合理的な判断ができなくなる可能性もあるため注意しましょう。

1.不動産のみの相続税は計算できない

相続財産に不動産以外の財産も含まれている場合、不動産のみにかかる相続税を計算することはできません。

なぜなら、相続税は亡くなった人に帰属するすべての財産および借金などの負債をまとめて課税対象として計算される仕組みになっているからです。

同様に不動産のみならず、現預金や有価証券にかかる相続税についても独立して計算することはできません。

上述したように相続対象の不動産を相続するか、売却するかについて考える際は、それぞれの場合の相続税額を全体でシミュレーションして判断する必要があります。

2.相続税の速算表の正しい見方

相続税の税率および控除額は、相続税の速算表という以下の一覧表で参照ができます。

【相続税の速算表】

法定相続分に応じた取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

一見すると「相続対象となる不動産の相続税評価額が5,000万円なので不動産にかかる相続税率は20%で、控除は200万円となり相続税額は800万円」と考える人もいるかもしれません。

しかし、そうではなく、上掲の表はあくまでも相続税計算の中盤にある一つのプロセスです。

各相続人の「法定相続分に応じた取得金額」を計算するために用いられるもののため、相続税額の最終的な金額を計算できるわけではない点は認識しておきましょう。

相続税の計算方法については、以下のトピックで詳しく解説します。

相続税を計算する7つのステップ

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相続税を計算する場合、以下の7つのステップを踏みます。

1.相続人を確定する

まず最初に、相続する権利を持つ法定相続人が誰なのかを以下の優先順位に沿って確定します。

必ず法定相続人になる人 亡くなった人の配偶者
第1順位 亡くなった人の子ども(子どもが亡くなっている場合は代襲相続人)
第2順位 亡くなった人の直系尊属(父母、祖父母)
第3順位 亡くなった人の兄弟姉妹

第2順位以下の人は、自分よりも優先度が高い人がいない場合に法定相続人となります。

たとえば、亡くなった人に配偶者と子どもがいる場合、亡くなった人の直系尊属および兄弟姉妹は法定相続人にはなれないということです。

2.相続対象となる正味の遺産総額を算出する

正味の遺産総額とは、相続税計算の元となる遺産総額のことです。

正味の遺産総額は、亡くなった時点で所有している財産などに、みなし相続財産(相続人が受取人となっている生命保険金、死亡退職金など)や債務、葬儀費用などを差し引きして計算されます。

3.正味の遺産総額から相続税の基礎控除を差し引く

正味の遺産総額から相続税の基礎控除を差し引くことで、相続税の課税対象額を算出します。

相続税における基礎控除額は、以下のとおりです。

相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人数)

正味の遺産総額から基礎控除額を差し引いた残りが0以下の場合、相続税は課税されません。

たとえば、正味の遺産総額が1億円、法定相続人が3人の場合の課税対象額は、以下のように計算します。

1億円-{3,000万円+(600万円×3人)}=5,200万円

つまりこのケースでは、5,200万円に対して相続税がかかることになります。

4.「法定相続分に応ずる取得金額」を算出する

法定相続人が法定相続分(民法に規定されている割合)で相続した場合の「法定相続分に応ずる取得金額」を求めます。

実際は、相続人の誰かが相続放棄したり相続人間での協議の結果として法定相続分とは異なる割合での相続になったりすることも少なくありません。

しかし手続きの便宜上、まずは法律に則った各相続人の取得金額を計算します。

上述した課税対象額5,200万円のケースで確認してみましょう。

亡くなった人の配偶者と子ども2人(長男・次男)で法定相続する場合の各取得金額は、以下の通りです。

・配偶者
:5,200万円×2分の1(法定相続分)=2,600万円

・長男
:5,200万円×4分の1(法定相続分)=1,300万円

・次男
:5,200万円×4分の1(法定相続分)=1,300万円

5.税率と控除額を加味して相続税の総額を算出する

以下の速算表をもとに各相続人の仮の相続税額を計算し、それらを合計して相続税の合計額を計算します。

【相続税の速算表】

法定相続分に応じた取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

配偶者が2,600万円、長男・次男がそれぞれ1,300万円ずつの法定相続分となる場合、各相続人の仮の相続税額およびそれらの合計は、以下の通りです。

・配偶者
:2,600万円×15%-50万円=340万円

・長男
:1,300万円×15%-50万円=145万円

・次男
:1,300万円×15%-50万円=145万円

・相続税額の合計
:340万円+145万円+145万円=630万円

6.相続割合に応じて相続税の総額を分配する

法定相続分ではなく、実際の相続分に応じて相続税額の合計を各相続人に分配します。

相続人間での協議の結果、法定通りの相続割合になった場合、それぞれの相続税額は以下の通りです。

・配偶者
:630万円×2分の1=315万円

・長男
:630万円×4分の1=157万5,000円

・次男
:630万円×4分の1=157万5,000円

7.各相続人の控除等を適用して最終の納税額を確定する

最後に、各相続人に適用される控除や加算分があれば、それらを加味して最終的な相続税額が確定します。

・税額控除には6種類ある

相続税における税額控除には、以下の6種類があります。

1.配偶者控除
配偶者が相続する財産のうち、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額まで相続税がかからない制度です。

配偶者の生活保障を目的としており、申告期限までに申告することで適用されます。

2.未成年者控除
20歳未満の相続人に対し、1年につき10万円を控除する制度です。

控除額は「(20歳-相続開始時の年齢)×10万円」で計算され、控除しきれない分は扶養義務者が負担する税額から差し引けます。

3.障害者控除
相続人が障害者の場合、1年につき10万円(特別障害者は20万円)を控除できます。

控除額は「(85歳-相続開始時の年齢)×控除額」で算出され、未控除分は扶養義務者の税額から差し引けます。

4.贈与税額控除
被相続人から生前に贈与を受け、贈与税を支払っていた場合、相続税額からその贈与税額を控除できる制度です。

相続開始前3年以内の贈与財産が相続財産に加算されるため、二重課税を防ぐ目的があります。

5.相次相続控除
被相続人が10年以内に相続で財産を取得し、相続税を支払っていた場合、一定額を控除できる制度です。

相続税の二重負担を軽減する目的があり、前回の相続税額や経過年数に応じて控除額が決まります。

6.外国税額控除
国外の財産を相続し、その国で相続税を支払った場合、日本の相続税と二重課税を防ぐため、日本の相続税額から一定額を控除できる制度です。

控除額は、日本と外国の税額のうち低い方が上限となります。

・相続税が2割加算される場合がある

遺産を取得した人が以下のいずれか以外である場合には、相続税額が加算されます。

1.亡くなった人の一親等の血族
2.代襲相続人となった直系卑属(孫やひ孫など)
3.亡くなった人の配偶者以外の人

たとえば、兄弟姉妹が相続人となった場合や、代襲相続以外の形で孫やひ孫に財産が遺贈された場合などは、通常の相続税額に2割を加算した金額を納税する必要があるということです。

相続税において不動産を評価する方法(土地編)

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不動産は、現金や株式と異なり画一的な価格がわかりにくいです。

そのため、ここでは相続財産として価値を評価する際の方法について解説します。

不動産は、大きく土地と建物に分かれ、さらに土地は宅地や田、畑、山林など10種類に分けられます。

それぞれの土地の種類について課税方法の規定があるため、ここでは相続財産として最も多くの人に関係する可能性が高い「宅地」の評価方法について解説します。

宅地には3種類あり相続時の評価方法が異なる

宅地とは、現在建物が建てられている土地、もしくは建物の敷地のために利用される土地のことです。

宅地には、大きく以下の3種類があります。

・自用地
・貸宅地
・貸家建付地

・1.自用地

自用地とは、自宅を建てて住んでいる場合など、所有者自らが使用している土地のことです。

・2.貸宅地

貸宅地とは、借地権などその土地を使用する権利が設定されており、第三者が自己所有の建物を建てている土地のことです。

第三者に賃貸していても、借主がその土地に建物を建てていない場合は借地権が発生しないため、貸宅地とはなりません。

・3.貸家建付地

貸家建付地とは、土地の所有者が自己所有する貸家の敷地として使用している土地のことです。

土地の所有者が自ら賃貸用のアパートを建てて第三者に賃貸している場合、その土地は貸家建付地に該当します。

土地のうえに建物が建てられている点は、貸宅地と同じです。

しかし建物をその土地の所有者が自ら所有している(貸家建付地)か、第三者が所有している(貸宅地)かという点で異なります。

土地の相続税評価額は「自用地」が基本

土地の相続税評価額は、自用地が基本です。

貸宅地・貸家建付地も、まずは自用地として評価をして、その評価額に調整を加える形で評価がおこなわれます。

自用地の相続税評価をする際の評価方式には以下の2つがあります。

・1.路線価方式

路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地における1平方メートルあたりの価額のことです。

地域によって定められている場所とそうでない場所があります。

路線価が定められている地域で用いられる土地の評価方法が路線価方式です。

路線価方式では、以下の計算式で土地の価格が評価されます。

路線価方式での土地の評価額=その土地の正面路線価(円/平方メートル)×面積(平方メートル)×補正率

「補正率」とは、その土地の形状等に応じて、評価額の補正が必要な場合に用いられる数値です。

・2.倍率方式

倍率方式とは、路線価が定められていない地域において用いられる土地の評価方法です。

倍率方式では、その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じることで土地の価格を評価します。

路線価図・評価倍率表の見方は国税庁ホームページで、固定資産税評価額は都道府県の税事務所や市役所、区役所、町村役場でそれぞれ確認が可能です。

相続税において不動産を評価する方法(建物編)

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不動産(建物)の相続税評価について、その建物の使用状況に応じて以下2つのパターンに分けて解説します。

相続税において不動産を評価する方法(建物編)

1.亡くなった人名義の自宅の場合

相続した建物が亡くなった人名義の自宅の場合、相続税評価額は以下のように計算されます。

相続税評価額=固定資産税評価額×1.0

固定資産税評価額が、そのまま相続税評価額になるということです。

2.賃貸用不動産の場合

相続した建物が賃貸用不動産の場合、相続税評価額は以下のように計算されます。

相続税評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合30%×賃貸割合)

「借家権割合」とは、賃貸物件の相続税評価に利用される割合の一つで、全国一律で30%と設定されています。

相続した建物が賃貸物件の場合、その後の不動産活用の方法が制限されることがあるため、借家権割合という乗数を設定することで、相続財産としての評価が割り引かれます。

賃貸割合とは、その建物の床面積のうち、どの程度が賃貸されているかを示す割合のことです。

相続税が課税されるタイミングで全貸室の床面積のうち、実際に賃貸されている床面積の割合を計算します。

不動産の相続時にできる7つの相続税対策

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不動産の相続時にできる相続税対策は、以下の7つです。

1.小規模住宅地等の特例を適用して節税

小規模宅地等の特例とは、相続税の計算において、被相続人等が居住または事業用に使用していた宅地について、一定の要件を満たす場合に、評価額を減額できる制度です。

この特例は、被相続人の生活基盤や事業を継承する相続人の負担を軽減することを目的としています。

具体的には、以下のような宅地が対象となり、減額割合や面積の上限が定められています。

● 特定居住用宅地等
・被相続人または同一生計の親族が居住していた宅地
・上限面積330平方メートルまで、評価額を80%減額

● 特定事業用宅地等
・被相続人が事業用に使用していた宅地
・上限面積400平方メートルまで、評価額を80%減額

● 貸付事業用宅地等
・被相続人が貸付事業用に使用していた宅地 ・上限面積200平方メートルまで、評価額を50%減額

この特例の適用には、相続人が一定の要件を満たす必要があり、相続税の申告時に適用を受ける必要があります。

2.自用地から貸宅地・貸家建付地に変更して節税

貸宅地・貸家建付地は、自用地よりも相続税評価が低くなります。

そのため賃貸経営を考えている場合は、貸宅地・貸家建付地として相続するのも選択肢の一つです。

第三者のために借地権を設定して建物を建ててもらったり、所有者自ら土地にうえに賃貸物件を建てたりして自用地を貸宅地・貸家建付地に変更することで節税が見込めます。

3.相続税評価の減額補正で節税

路線価方式で土地を評価する場合、土地の形状や面積、周辺環境等の要因を加味して相続税評価額を減額補正できる可能性があります。

たとえば、「形が悪い土地」「間口や奥行きが狭い土地」などは、活用方法が限定される可能性があるため、土地としての評価を下げられる場合があるということです。

減額補正の可否については、専門知識が必要なため、税理士や土地家屋調査士といった専門家の意見を参考にするのがいいでしょう。

4.不動産の生前贈与における相続時精算課税を活用して節税

不動産を生前贈与する際に相続時精算課税という課税方式を選択することで、相続税の節税ができる場合があります。

相続時精算課税とは、生前贈与時に贈与税を支払い、相続時に贈与財産を相続財産に加えて相続税を計算する制度です。

2,500万円までの特別控除があり、超えた部分は一律20%で課税されます。

暦年課税との選択制で、一度選択すると暦年課税には戻れません。

たとえば、課税評価額3,000万円の土地を相続時精算課税で贈与したとしましょう。

相続時精算課税では、贈与者が死亡して相続が発生したときに贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算されます。

そのため贈与を受けてから相続発生までに、その土地が値上がりした場合、結果として相続税を節税することが可能です。

相続時にその土地の課税評価額が5,000万円に値上がりしていたとしても、贈与時の評価額となる3,000万円の財産として相続財産に組み入れられます。

そのため、値上がりした2,000万円を相続財産から実質的に圧縮できるということです。

このように贈与時から相続時までに土地の課税評価額が値上がりしていた場合、結果として相続税の節税になるケースはあるものの、必ず節税になるとはいえません。

もし都心の不動産など価格上昇が見込める場合は、検討する価値のある方法といえるでしょう。

5.不動産の生前贈与における特例(配偶者控除)を活用して節税

夫婦間で国内にある居住用不動産またはその購入資金の生前贈与があった場合、一定条件を満たせば財産の評価額から最大で2,110万円(配偶者控除2,000万円+基礎控除110万円)の控除が受けられる制度があります。

これを配偶者控除といいます。

配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産またはその取得資金を贈与する場合に適用される制度です。

長年連れ添った夫婦に適用されることから通称で「おしどり贈与」とも呼ばれています。

適用条件は以下のとおりです。

・婚姻期間
夫婦の婚姻期間が20年以上であること。

・対象財産:
贈与された財産が、夫婦が居住するための居住用不動産、またはその居住用不動産の購入資金であること。

・居住要件
贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与された居住用不動産、または贈与を受けた資金で購入した居住用不動産に、贈与を受けた配偶者が実際に住んでおり、その後も住み続ける見込みであること。

・同一配偶者からの贈与
同一の配偶者からの贈与については、一生に一度しか適用を受けることができない。

配偶者控除は、相続税対策や老後の住まいの確保を目的として活用されることが多い制度です。

相続税の計算では、原則として「生前贈与加算」のルールが適用され、贈与者の死亡前7年以内におこなわれた贈与は相続財産に含まれ、相続税の課税対象となります。

しかし、贈与税の配偶者控除による贈与は、この生前贈与加算の対象外です。

そのため、贈与者が亡くなる前7年以内に贈与しても相続財産には含まれず、贈与税だけでなく相続税の節税効果も期待できます。

6.配偶者の非課税枠を活用して節税

配偶者が相続人の場合、1億6,000万円または法定相続分までの非課税枠の適用を受けることができます。

配偶者が相続によって取得した財産額が、1億6,000万円以下、または法定相続分の範囲内の場合、相続税は課税されません。

7.養子縁組で法定相続人を増やして節税

養子縁組で法定相続人の数が増えた場合、相続税の基礎控除や生命保険金の非課税枠も増えるため、相続税の節税ができます。

民法上、養子縁組に制限はありません。

しかし相続税法上では、法定相続人として加算できる普通養子の数は実子がいない場合で2人まで、いる場合は1人までと定められているため、注意が必要です。

関連記事
不動産で相続税対策ができる3つの理由と注意すべき5つのポイント

不動産相続における5つの注意点

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不動産を相続する際に注意すべき点は、以下の5つです。

1.不動産の共有は避けるのが無難

一つの不動産に持ち分を分割して各相続人で共有する場合、意思決定の煩雑さやトラブルの原因になるリスクがあるため、共有名義は避けて単独名義にするほうが無難です。

長期間共有されたまま放置されると、共有者が死亡してその持ち分がさらに複数人に分割される可能性があります。

また現時点での共有者が誰なのか整理ができなくなるリスクもあるため、注意が必要です。

共有名義の不動産の売却や建て替えをする際には、共有者全員の同意を得ることが必要になります。

そのため上記のような状況だと不動産を適切な管理や運営が難しくなってしまうでしょう。

関連記事
不動産を遺産分割協議で分けて相続する4つの方法とメリットとデメリットを解説

2.不動産の相続人が複数いる場合は分割を検討する

相続人間での不動産の共有状態を避けるために、以下いずれかの方法で不動産を分割する方法があります。

・代償分割

特定の相続人がその不動産を引き継ぎ、その代わりに他の相続人に対して相当の金銭等を支払って精算する方法です。

・換価分割

不動産を売却して現金化し、各相続人で分割する方法です。

不動産売却にあたっては、時間と手間がかかります。

また仲介手数料や所得税および住民税などのコストもかかるため、いずれの分割方法が合理的かは慎重に話し合いましょう。

3.借金も相続対象の場合、限定承認のうえ自宅不動産を相続する方法を検討する

限定承認とは、プラスの財産(現金や不動産など)の範囲内で、マイナスの財産(借金など)も引き継ぐ制度です。

「借金があるので相続放棄をしたいが、そうすると自宅不動産も手放すことになり、生活に困ってしまう」といった場合、限定承認を選択することで解決できるかもしれません。

たとえば評価額5,000万円の自宅不動産と1億円の借金が相続財産の場合、限定承認をすれば自宅不動産と借金5,000万円のみを相続できるということです。

単純承認をして全財産を相続してしまうと、自宅は相続できますが、同時に1億円の借金も全額相続することになります。

こういったケースで限定承認を選択すれば、借金を自宅不動産の範囲内のみにとどめることが可能です。

4.相続税の納税が難しい場合、不動産の売却を検討する

相続財産における不動産の比率が高い場合、相続税が高額になりやすく相続によって取得できる現金が少ない可能性があります。

結果として「財産を取得したものの相続税を納められるだけの現金の目処が立たない」という状況に陥ることも珍しくありません。

そのような場合は、不動産の売却を検討する必要があるでしょう。

相続税の納税期限は、相続開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月目の日です。

比較的短期間となるため、相続が発生してから売却活動を始めると納税資金の確保を急ぐあまり安値で売らざるを得なくなるリスクがあります。

相続財産に不動産が含まれる場合は、生前から相続税の節税対策を考えたり、納税用の資金を準備しておいたりするなど事前準備をしておくと安心でしょう。

5.不動産の相続登記が義務になる

2024年4月1日以降は、不動産の相続登記が義務化され、不動産の相続を知った日から3年以内に登記ができていない場合は10万円以下の過料の対象となる可能性があります。

相続発生時は、葬儀や財産整理、遺産分割協議などで忙しくなりますが、不動産登記も忘れずにしておきましょう。

よくある質問Q&A

不動産の相続にはどんな税金がかかる?税額の計算方法も解説
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ここでは、不動産を相続に関してよくある質問と回答を紹介します。

Q.不動産を相続すると税金はかかる?

はい、不動産を相続すると相続税がかかる場合があります。

相続税は、被相続人の遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えると課税対象になります。

不動産の評価額は路線価や固定資産税評価額を基に計算され、相続財産に加算されます。

ただし、小規模宅地等の特例などを適用すると、税負担を軽減できる場合があります。

Q.相続税の申告・納税期限はいつ?

相続税の申告と納税の期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内です。

この期限までに相続財産の評価や遺産分割協議を終え、税額を確定させる必要があります。

期限を過ぎると延滞税や加算税が発生するため、早めの準備が重要です。

納税方法は、現金一括納付が原則ですが、分割で支払う「延納」や不動産を納める「物納」も認められる場合があります。

Q.不動産の相続税を減らす方法は?

相続税を減らす方法として、小規模宅地等の特例の活用が有効です。

これは、一定の条件を満たす居住用または事業用の土地の評価額を最大80%減額できる制度です。

また、配偶者控除を適用すると、配偶者が相続した財産のうち1億6,000万円または法定相続分のどちらか多い方まで相続税がかかりません。

さらに、不動産の生前贈与や相続時精算課税制度の活用も節税対策として検討できます。

Q.相続した不動産を売ると税金はかかる?

はい、相続した不動産を売却すると譲渡所得税がかかる可能性があります。

税額は「売却価格-取得費(相続時の評価額)-譲渡費用」で計算され、所有期間が5年を超えると長期譲渡所得税(15%)、5年以下なら短期譲渡所得税(30%)が適用されます。

ただし、「相続財産の取得費加算の特例」などを活用すれば、相続税を一部取得費に加算し、税負担を軽減できます。

Q.相続税が払えない場合どうすればいい?

相続税の納付が困難な場合、「延納」と「物納」の制度が利用できます。

延納は、税額が10万円以上で、金銭一括納付が困難な場合に最長20年の分割払いが認められます。

物納は、延納でも支払いが難しい場合に、不動産などの相続財産を納税に充てる制度です。

ただし、物納は条件が厳しく、事前に税務署の許可が必要なため、早めに手続きを進めることが重要です。

まとめ|不動産は金額が大きいため相続の事前準備が重要

不動産の相続にはどんな税金がかかる?税額の計算方法も解説
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不動産の相続は、金額が大きく多額の相続税を納税するケースも少なくありません。

相続税は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に納税しなければいけないため、節税対策や納税資金の確保など準備を早めにしておくと安心です。

不動産を相続するうえでの注意点や、相続税の節税方法についてはしっかりと理解しておくことが重要となります。

どの方法をとった場合に相続税がいくらになるのか、事前にシミュレーションしておけば、合理的かつ円滑な相続ができるでしょう。

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吉田謙太郎
吉田謙太郎(著者)
宅建士・不動産投資家・ライター。筑波大学卒業後、大手不動産会社にて投資用不動産の売買および賃貸営業・投資家へのコンサルティング・自社メディアでの記事執筆などに従事。現在は個人事業主としてWebライティングなどを行なっている。自身でも社会人1年目(22歳)から不動産投資をしており、横浜市・大阪市・神戸市に区分マンションを4戸運用中。保有資格は宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、3級ファイナンシャル・プランニング技能士。