不動産小口化商品は、少額から不動産投資を始めたい方や円滑な遺産分割を目指す方に注目されています。しかし、他の投資商品と同様に、メリットと同時にリスクも存在します。この記事では、不動産小口化商品の仕組みからリスク、そしてリスクを抑えるための具体的なポイントまで解説します。
- 不動産小口化商品は、不動産を小口化し、少額から複数の投資家で共同購入する投資スキームです。
- 主なリスクには、空室による収益減少、低い流動性、運営事業者の倒産リスクがあります。
- リスクを抑えるためには、立地・物件の選定、物件用途の把握、そして分散投資が重要です。
- 遺産分割の円滑化にも有効なため、目的に合わせて適切なタイプを選ぶことが肝要です。
目次
不動産小口化商品とは?
不動産小口化商品とは、マンションやオフィスビルなどの不動産を一口数万〜100万円といった少額に分割し、複数の投資家で共同購入する投資商品のことです。これにより、高額な不動産投資を個人でも手軽に行うことが可能になります。対象の不動産は、単独の不動産もあれば、複数の不動産もあります。
不動産小口化商品の仕組みは?
不動産小口化商品は、投資家が小口化された不動産の一部を購入し、その不動産から得られる家賃収入や売却益を分配金として受け取る仕組みです。この事業は「不動産特定共同事業法」(不特法)という法律に基づいて運営されます。
不動産特定共同事業法は1994年に国会で成立、1995年に施行された法律で、投資家が不測の被害を被ることがないように、不動産特定共同事業の健全性の維持を目的として制定されました。
不動産特定共同事業法の全文は「不動産特定共同事業法|e-Gov」で確認することができます。ちなみに、法律の第一条(目的)は以下のようになっています。
不動産小口化商品の種類とそれぞれの特徴は?
不動産小口化商品は「匿名組合型」「任意組合型」「賃貸型」の3つの主要な種類があります。それぞれのタイプで、所有権の有無、収益の税務上の扱い、減価償却の可否、投資スパンが異なります。
| 種類 | 所有権 | 収益の税務上の扱い | 減価償却 | 投資スパン |
|---|---|---|---|---|
| 匿名組合型 | なし | 雑所得 | できない | 短期可(数ヵ月〜) |
| 任意組合型 | あり | 不動産所得 | できる | 基本長期(10年程度) |
| 賃貸型 | あり | 不動産所得 | できる | 基本長期(10年程度) |
・匿名組合型
匿名組合型では、投資家は匿名組合の事業者と匿名組合契約を結び、出資します。その出資金で運用する不動産から発生した家賃や売却益が、投資家に分配される仕組みです。
匿名型組合で投資家が得られる収益は、税務上「雑所得」と扱われます。不動産の所有者にはなれず、所得税の節税につながる減価償却の仕組みを使うことはできません。
1口数万〜10万円程度のものが多く、投資期間は数ヵ月〜10年程度と、他の2つに比べて短期投資が可能であることも特徴です。
・任意組合型
任意組合型では、事業者と投資家が任意組合契約を締結し、共同で不動産事業を展開します。出資方式には「現物出資」と「金銭出資」がありますが、いずれの場合も不動産の所有者になれます。
※個人は損益通算が出来ません
不動産運用から発生した家賃や売却益が投資家に分配され、その収益は税務上「不動産所得」として扱われます。
1口100万円以上のものが多く、長期投資として取り組むことになります。
・賃貸型
賃貸型では、出資額に応じて不動産の持ち分が決まります。すなわち、不動産の所有者となることができます。
※個人は損益通算が出来ません
その不動産の運用を行う事業者と賃貸借契約を結び、運用で発生した家賃や売却益は持ち分に応じて投資家に分配されます。
1口100万円程度のものが多く、基本的には長期投資となります。
不動産小口化商品における3つのリスクとは?
続いて、不動産小口化商品におけるリスクについて解説します。
不動産小口化商品は、運用する不動産からの収益によってリターンを得られるため、不動産投資の一種と考えることができます。そのため、不動産投資で注意しなければならないリスクの一部は、不動産小口化商品にも当てはまります。
1.空室リスクがある
不動産投資においてまず考えられるリスクに、「空室リスク」があります。マンションであれ、オフィスビルであれ、商業施設であれ、空室が出るとその分家賃収入が減ります。家賃収入が減ると、投資家への分配金の原資も減ります。
2.流動性が低く急な資金ニーズに対応しにくい
不動産小口化商品は商品ごとに運用期間が定められており、原則的に運用期間が終了するまで中途解約をせずに投資を続ける必要があります。
中途解約をせざるを得なくなった場合は、かなり低めの価格での買取となったり、大きな手数料が発生したりします。
簡単に中途解約ができないということは、急な資金ニーズに対応しにくいということです。
投資の世界では「現金化のしやすさ」を「流動性」と呼びます。株式や投資信託、外貨などは流動性が高めですが、不動産小口化商品は低めです。
3.運営事業者の倒産によるリスクがある
投資対象の不動産を運営する事業者が倒産した場合は、投資を継続できなくなることがあります。こうした場合、不動産を売却してその資金を投資家に分配することになっても、売却がうまくいかなかったり、売却を急ぐあまり大きな売却損が発生したりするおそれがあります。
その他の注意すべきリスクとは?
上記以外にも、不動産小口化商品には以下のようなリスクが存在します。
不動産価値下落リスク:対象不動産の立地条件の悪化や周辺環境の変化などにより、不動産自体の価値が下落し、売却時に損失が発生する可能性があります。
金利変動リスク:不動産ローンの金利が上昇すると、事業者の運用コストが増加し、投資家への分配金に影響が出る可能性があります。
災害リスク:地震、水害などの自然災害により、対象不動産が損壊した場合、修繕費用の発生や収益の減少、最悪の場合は投資元本の毀損につながる可能性があります。
税制変更リスク:不動産に関する税制が変更された場合、想定していた節税効果が得られなくなる可能性があります。
不動産小口化商品のリスクを抑えるためには?
「空室リスク」は、不動産小口化商品の選び方によって大幅に抑えることができます。
具体的には、立地条件の確認や物件の見学、対象物件の用途などのチェックを通じて、リスクが低めの商品を選ぶことになります。
1.「立地条件」を確認してリスクを減らす
不動産小口化商品の投資対象は、住居向けやオフィス向け、商業施設向け、宿泊施設向けなど、それぞれに用途があります。
どのような用途であっても立地条件が良いに越したことはないのですが、特に重視すべきポイントは変わります。
例えば、住居向けの場合はスーパーや病院、郵便局などの生活利便施設が近くにあるか、オフィス向けの場合は街のブランドイメージが企業イメージを損なわないか、商業施設向けの場合は近くに競合する施設がないか、宿泊施設向けの場合はそのエリアのインバウンド観光が今後活発化するか、といったポイントがあります。
2.「物件」を見学してリスクを減らす
不動産小口化商品によっては、実際に投資する建物などを案内する見学ツアーなどが実施されるものもあります。パンフレットで投資対象の不動産を見るのと、実際に自分の目で見るのとでは、印象がかなり違うことがあるため、物件の見学ツアーには積極的に参加しましょう。
3.「対象物件の用途」でリスクを確認
不動産の用途によって、期待できるリターンや抱えるリスクの特性が異なります。
住居向け:景気に左右されにくく、安定した賃貸需要が期待できるため、収益は比較的安定しやすい傾向があります。ただし、商業施設向けやオフィス向けと比較すると、リターンは控えめになる傾向があります。
商業施設向け:高い賃料設定が可能なため、高い収益性を期待できます。しかし、景気変動の影響を受けやすく、不況時には賃料を上げにくい、あるいは空室が発生しやすいといったリスクがあります。
オフィス向け:住居向けと商業施設向けの中間的な特性を持ちます。一企業がフロア全体を借りるケースも多いため、その企業が退去すると一気に家賃収入が減少するリスクがあります。
分散投資でリスクを軽減できる?
不動産小口化商品に投資する場合でも「分散投資」という視点を持ち、リターンの安定化に努めるべきです。
不動産小口化商品に限らず、分散投資は投資の基本です。例えば不動産市況が悪化して、不動産小口化商品への投資で売却差損が出る状況でも、他の資産運用で好調であれば損失を最低限に留めることができます。
分散投資には「資産の分散」「地域の分散」「時間の分散」があります。資産の分散は「不動産小口化商品+株式投資」というように投資対象となる資産を分散すること、地域の分散は「アメリカへの投資+日本への投資」というように投資対象エリアを分散すること、時間の分散は一度にすべての資金を投資せず、積立型などで投資を行う方法を指します。
ここでは、「資産の分散」に取り組むための一般的な投資方法を4つ紹介します。
1.株式投資
株式投資は、自ら個別株を選んで保有する投資手法です。その株式の売買によって得られる売却益と、保有している間に得られる配当金や株主優待がリターンとなります。
個別株の値動きは、ある程度時価総額が大きい銘柄であっても、かなり荒いです。1日で株価が20%高となることもあれば、20%安となることもあります。
日本には「ストップ高」「ストップ安」といった仕組みがありますが、アメリカにはそのような値幅制限がなく、1日で株価が2倍になったり、2分の1になったりすることもあります。
ただし、保有する銘柄の数を増やし、保有銘柄の業種も分散させることで、リスクを抑えることができます。
2.投資信託
投資信託は、一定の運用方針の下で運用されるファンドに投資を行う投資商品です。さまざまなタイプの投資信託があり、「インデックス型の投資信託」「テーマ型の投資信託」「アクティブ型の投資信託」「バランス型」などがあります。
インデックス型の投資信託は、「日経平均株価」や「S&P500」など代表的な株価指数に連動する成果を目指す投資信託です。
株価指数はさまざまな株式銘柄で構成されていることから、インデックス型の投資信託は分散性が非常に高く、ボラティリティ(変動幅)も低めです。
3.債券投資
債券投資は大きく分けて2種類あります。新規に発行される新発債を購入して満期日まで保有する方法と、既発債を購入して債券価格の値動きで売却益などを狙う方法です。
前者は発行元が破綻しない限り元本が保証され、保有中は利子を受け取ることができます。一般的に国が発行する「国債」が最も信頼度が高いです。後者は、株式投資のように値上がりを待って売却し、売却益を狙います。リスクは後者のほうが高めです。
4.外貨預金
外貨預金は円を外貨にして預金することで、円預金より高い利息を得る投資手法です。低金利の日本では預金で得られる利息はごくわずかですが、金利が高い国の通貨で預金をすると利息収益は大きくなります。
外貨預金のメジャーな通貨としては、米ドルやユーロ、豪ドル、トルコリラなどが挙げられます。外貨預金は続ける限り安定的に利息収入を得られますが、為替の変動によって含み損が発生するリスクが常に伴います。
例えば、年間2%の利息を得られる通貨で外貨預金に取り組むとします。1,000万円をその外貨にして1年間保有すると20万円の利息を得られますが、その外貨の価値が5%下落すると50万円の含み損が発生し、トータルでの資産が減ったことになります。
不動産小口化商品はどんな人におすすめ?
最後に、不動産小口化商品に投資するのがおすすめの人を2タイプ挙げます。
1.少額から不動産投資をしたい人
少額から不動産投資を始めたい人は、不動産小口化商品がおすすめです。都市部のマンションや商業施設、オフィスビルなどは、かなりの資産を保有していなければ購入することができません。一方、不動産小口化商品であれば100万円程度で不動産の所有権を得られます。
2.将来の遺産分割を円滑に進めたい人
マンションやオフィスビルなどの不動産は、物理的に分割することができません。そのため、相続の際の遺産分割がスムーズに進まないことがあります。その場合は、建物を売却して現金化するなどの方法を採ることになり、面倒です。
一方で不動産小口化商品であれば、30口保有している場合は子ども3人で10口ずつ相続すれば済むので簡単です。
不動産小口化商品に関するよくある質問(FAQ)
不動産小口化商品について、投資を検討する際に多くの人が抱く疑問に答えます。
Q1. 中途解約は可能ですか?
原則として中途解約はできません。 不動産小口化商品は、商品ごとに運用期間が定められており、その期間中は原則として中途解約ができません。もしやむを得ず中途解約を希望する場合、かなり低い価格での買い取りとなったり、高額な手数料が発生したりすることが多いため、投資前に十分な資金計画を立てることが重要です。
Q2. 元本保証はありますか?
元本保証はありません。 不動産小口化商品に限らず、投資商品には元本保証がないことが一般的です。不動産価格の変動や空室リスク、運営事業者の倒産などにより、元本を割り込む(損失が出る)可能性があります。そのため、リスクを理解し、自己責任で投資判断を行う必要があります。
Q3. 不動産小口化商品を始めるにはどうすれば良いですか?
まずは事業者選びと情報収集から始めましょう。 不動産小口化商品は「不動産特定共同事業法」に基づき、国土交通大臣または都道府県知事の許可を受けた事業者が扱っています。
情報収集:興味のある事業者のウェブサイトで、商品の詳細、リスク、過去の実績などを確認します。
資料請求・説明会参加:より詳しい情報を得るために、資料を請求したり、オンライン説明会やセミナーに参加したりすることをおすすめします。
個別相談:疑問点を解消するため、専門家や事業者に個別相談をするのも良いでしょう。
申し込み・契約:商品内容とリスクを十分に理解し、納得した上で申し込み、契約手続きに進みます。
まとめ
不動産小口化商品は、少額から不動産に投資し、遺産分割の円滑化といったメリットを享受できる魅力的な投資商品です。しかし、他の投資と同様に空室リスク、流動性リスク、事業者リスクなど、様々なリスクが存在します。
これらのリスクを正しく理解し、立地や物件の慎重な選定、そして分散投資を組み合わせることで、リスクを抑えながら賢く資産形成を目指すことが可能です。投資は「機会損失」を避けるためにも、リスクを恐れずに学び、行動することが大切です。ご自身の投資目的やリスク許容度に合わせて、不動産小口化商品の活用を検討してみましょう。

