暦年贈与で重要になる契約書の書き方をひな形付きで解説
(画像=varts/stock.adobe.com)

【損をしないための贈与税ガイドブック】

相続の負担を減らすための対策として、「生前贈与」は多くの方に注目されています。中でも手軽に始めやすいのが「暦年贈与」です。暦年贈与では年間110万円までなら贈与税がかからない「基礎控除」という仕組みを毎年活用しながら、少しずつ財産を贈与していくことで、将来の相続財産を減らすことを目指します。

暦年贈与を安全かつ確実に進めるためには、いくつかの重要なポイントがあります。特に見落とされがちなのが「贈与契約書」の作成です。「家族間のことだから」「現金の手渡しだから」といった理由で契約書を作らないと、思わぬ税務上のトラブルや相続時の争いを招く可能性があります。

本記事では暦年贈与を検討している方に向けて、まず暦年贈与の基本的な仕組みと節税の理由を分かりやすく解説します。その上で、なぜ贈与契約書が重要なのか、どのように作成すれば良いのか、そして確実に暦年贈与を進めるための注意点について、ひな形も交えながら徹底的にご説明します。これを読めば、あなたも暦年贈与を正しく理解し、安心して相続税対策を始めることができるでしょう。

目次

  1. 暦年贈与の仕組みと節税の理由
  2. なぜ必要? 暦年贈与で「贈与契約書」を作るべき理由
  3. 贈与契約書の作成方法とひな形
  4. 暦年贈与と契約書に関する4つの注意点
  5. 贈与契約書作成のよくあるQ&A
  6. まとめ

暦年贈与の仕組みと節税の理由

暦年贈与を始める前に、その基本的な仕組みを理解しておきましょう。これが、なぜ贈与契約書が必要になるのか、そしてどのように節税につながるのかを理解する第一歩となります。

暦年贈与とは? 贈与税の「暦年課税」を利用した贈与方法

贈与税の計算方法には、大きく分けて「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があります。特別な手続きをしない限り、個人間の贈与には「暦年課税」が適用されます。

暦年課税では、その年の1月1日から12月31日までの1年間(これを「暦年」と呼びます)に贈与された財産の合計額に対して贈与税が課税されます。ここで重要なのが、年間110万円の「基礎控除」があるということです。1年間の贈与額の合計が110万円以下なら、贈与税はかかりません。税金の申告も不要です。1年間の贈与額が110万円を超えた場合でも、課税されるのは超えた分のみです。

例えば、ある年に合計150万円の贈与を受けた場合、110万円は基礎控除で差し引かれるため、贈与税の対象となるのは150万円 - 110万円 = 40万円となります。

暦年贈与とは、この暦年課税の年間110万円の基礎控除を最大限に活用し、贈与税がかからない範囲(またはごくわずかな税金負担で済む範囲)で、毎年計画的に少しずつ財産を贈与していく方法なのです。これを長期間続けることで、将来相続が発生したときの財産総額を減らすことを目指します。

暦年贈与が相続税の節税になる理由

「贈与税を払ってまで生前贈与をする意味があるの?」と思う方もいるかもしれません。暦年贈与が相続税対策として有効な理由は、主に以下の2点です。

・将来の相続財産を減らせる
毎年コツコツと贈与を行うことで、贈与者の財産は徐々に減っていきます。その結果、将来相続が発生したときに、相続税がかかる対象となる財産総額が減少し、相続税の負担を軽減できます。

・相続税率よりも贈与税率の方が低い場合がある
相続税の税率は、相続財産の金額が高くなるにつれて税率が上がる累進課税(高い税率で最大55%)です。一方、贈与税も累進課税ですが、年間110万円以下の贈与であれば税率は0%です。また、110万円を少し超える程度の贈与であれば、贈与税率は相続税率の最低税率(10%)よりもさらに低い税負担で済む場合があります(詳しくは後述のQ&A参照)。

相続財産が多い方は、より高い相続税率が適用されることになります。そこで、生前に財産を贈与して相続財産を減らすことで、適用される相続税率そのものを下げたり、税率の高い部分の財産を減らしたりすることができ、結果として大きな節税につながるのです。以下の相続税率の表を見てみましょう。(出典:国税庁 No.4155 相続税の税率

相続財産の評価額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
1,000万円超3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超1億円以下 30% 700万円
1億円超2億円以下 40% 1,700万円
2億円超3億円以下 45% 2,700万円
3億円超6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

例えば、相続財産が5,500万円ある方の場合、税率は30%となります。もし生前贈与で500万円を贈与して相続財産を5,000万円に減らせば、相続税率は20%に下がります(ただし、贈与加算の対象となる場合など、実際の計算は異なります)。このように、暦年贈与によって相続財産を計画的に減らすことは、将来の相続税負担を軽減するための有効な手段となり得るのです。

"東京を資産として保有する" 小口化所有オフィスAシェア®とは >

なぜ必要? 暦年贈与で「贈与契約書」を作るべき理由

暦年贈与自体は、税法に定められた基礎控除を利用する合法的な節税方法です。

しかし、そのやり方を間違えると、税務署から「贈与ではなかった」と判断されたり、思わぬ課税を受けたりするリスクがあります。

そのリスクを回避し、贈与を確実に成立させるために非常に重要となるのが「贈与契約書」の作成です。

「家族間のことなのに、大げさでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、贈与契約書は、贈与の事実を明確に証明する「証拠」として、いくつかの重要な役割を果たします。

1.贈与の「合意」と「事実」を明確な証拠として残せる

贈与は、財産を「あげる人(贈与者)」と「もらう人(受贈者)」の双方の合意があって初めて成立する契約です。単に贈与者が一方的に財産を渡しただけでは、法的には贈与とは認められない場合があります。特に、贈与者が受贈者名義の口座にお金を入金したものの、その口座の存在を受贈者が知らず、管理も贈与者が行っているようなケースでは、税務署から「名義預金(実質的には贈与者の財産)」と判断される可能性が高いです。

贈与契約書は、「いつ」「誰から誰へ」「どのような財産を」「贈与する(あげる)」「受け取る(もらう)」という両者の意思と合意があったことを明確に記録するものです。契約書に贈与者と受贈者が署名・捺印することで、贈与の合意があったこと、そしてその合意に基づいて実際に贈与が行われた事実を客観的に証明できます。

特に、毎年同じ人に、同じ時期に、同じ金額を贈与しているような場合、税務署から「これは最初からまとまった金額を贈与するつもりだったのに、税金逃れのために毎年分割して贈与したのではないか?」、つまり「定期贈与」ではないかと疑われるリスクがあります。定期贈与と見なされると、初年度に全額を贈与したとみなされ、多額の贈与税が課される可能性があります。

贈与契約書を毎年作成し、契約内容(贈与する財産や金額、時期など)をその年ごとに明確にすることで、それぞれの贈与が独立したものであることを主張する有力な証拠となります。「毎年個別の贈与契約を結んで、贈与を行いました」と示すことができるのです。

2.税務調査が入った際の説明資料となる

相続が発生すると、税務署が相続財産について調査を行うことがあります。その際、被相続人(亡くなった方)の過去の預金移動履歴などが確認され、生前の贈与の事実について税務署から質問を受けることがあります。特に多額の贈与があった場合や、不自然な金の動きがある場合は、税務調査の対象になりやすい傾向があります。

もし贈与契約書がなければ、「これは贈与だった」「いや、これは預け金だった」「単なるお小遣いだった」など、関係者の記憶や証言に頼るしかありません。しかし、税務署は客観的な証拠を重視します。贈与契約書があれば、「この日付で、この内容の贈与契約を結び、財産はこのように移転しました」と明確に説明でき、税務署の疑念を払拭する強力な証拠となります。税務調査に際して、自信を持って贈与の事実を証明できることは、追徴課税などのリスクを避ける上で非常に重要です。

3.相続発生時の親族間トラブルを回避できる

「争族(争う相続)」という言葉があるように、相続を巡る親族間のトラブルが起こりやすいものです。

生前贈与は、特定の相続人にだけ財産を渡すことになるため、他の相続人から見て不公平感が生まれやすく、トラブルの原因となることがあります。

例えば、親が長男だけに生前贈与を繰り返していた場合、相続時に他の兄弟姉妹から「なぜ長男だけ?」「あの生前贈与は贈与ではなかったのでは?」と疑われ、遺産分割で揉める可能性があります。

贈与契約書は、贈与者と受贈者だけでなく、他の相続人に対しても、「〇〇さんに、いつ、いくらの贈与をした」という事実を明確に示せる資料となります。これにより、贈与の事実を隠していた、不公平な財産隠しではないか、といった疑念を防ぎ、将来の相続における無用なトラブルを未然に防ぐ効果が期待できます。

贈与契約書は、家族間の信頼関係のためにも、そして将来的な税務上・法務上のリスクを避けるためにも、必ず作成しておくべき重要な書類なのです。

"東京を資産として保有する" 小口化所有オフィスAシェア®とは >

贈与契約書の作成方法とひな形

贈与契約書は、法的に有効な契約書であれば特定の書式は定められていません。つまり、内容が必要な情報を含んでいれば、手書きでもパソコン作成でも有効です。しかし、初めて作成する方がゼロから完璧なものを作るのは難しいでしょう。

ここでは、贈与契約書に記載すべき必須項目と、すぐに使えるひな形をご紹介します。このひな形に必要な情報を記入すれば、法的に有効な贈与契約書として使用できます。

贈与契約書に必要な項目

贈与契約書の作成にあたって必要な情報は、以下のとおりです。

1.贈与者の氏名、住所

誰が財産をあげるのかを明確にするために、贈与者の氏名と住所を記載します。一般的に、契約書では「甲」となります。

2.受贈者の氏名、住所

誰が財産をもらうのかを明確するために、受贈者の氏名と住所も記載します。

贈与は贈与者と受贈者の双方が「あげる」「もらう」ことを合意している必要があるので、契約書では受贈者が署名捺印することで受贈の意思を表示します。一般的に、受贈者は契約書では「乙」となります。

3.贈与契約締結の日付、贈与を実行する日付

贈与契約を締結した日と、実際に贈与を実行する日付を記載します。締結日と実行日が同じであっても問題ありませんし、別の日でも構いません。現実に即した日付を記入しましょう。銀行振込であれば、振込日を贈与日として記載します。

4.財産の種目、内容、金額など財産に関する情報

「何を」贈与するのかを特定するために具体的な内容(現金であれば金額、不動産であれば所在地や地番・家屋番号、株式であれば銘柄名・株数など)が必要です。現金であれば「金〇〇円也」、不動産であれば登記簿謄本を見ながら正確に記載します。

5.贈与の方法

贈与財産をどのように受贈者に引き渡すのか、方法を記載します。

  • 現金手渡し:「現金にて手渡しする」
  • 銀行振込:「〇〇銀行△△支店の乙名義預金口座に振り込む」のように、金融機関名、支店名、口座種類、口座番号などを具体的に記載します。
  • 不動産:名義変更の登記手続きを行う旨を記載します。

これらの情報を正確に記載することが、贈与の事実を証明する上で非常に重要です。

贈与契約書のひな形

贈与契約書のひな形を作成しました。この内容をコピーしてWordなどのソフトに貼り付け、必要な内容を書き込めば贈与契約書として利用できます。

贈与契約書


贈与者      (以下、甲という)と受贈者      (以下、乙という)は、以下のとおり贈与契約を締結した。


第1条 甲は、乙に対して       を贈与することを約し、乙はこれを承諾した。

第2条 甲は、第1条において贈与した財産を、令和  年  月  日までに、〇〇〇〇(贈与の方法)によって贈与する。

以上の契約を証するために本書を2通作成し、記名捺印の上、甲乙各1通を保有するものとする。
以上

令和  年  月  日
甲                  
        (住所)               
(氏名)            印  

乙                  
(住所)               
(氏名)            印  

下線部分や〇〇となっている部分には、当事者の情報や贈与財産に関する情報を記入します。

契約書は2通作成:贈与者と受贈者の双方がそれぞれ原本を保管する必要があります。ひな形の末尾にある通り、「本書を2通作成し、甲乙記名捺印の上、各自その1通を保有する」と記載し、同じ内容の契約書を2部作成し、両方とも署名・捺印した上で、贈与者と受贈者が1部ずつ保管しましょう。

暦年贈与は「毎年」作成:暦年贈与は毎年行われます。面倒に感じるかもしれませんが、毎年、その年の贈与について新しい贈与契約書を作成してください。 これが、それぞれの贈与が独立したものであり、「定期贈与」ではないことを証明する重要なポイントです。毎年全く同じ内容ではなく、日付や、もし金額や財産の種類を変えるならその内容を反映させて作成しましょう。

"東京を資産として保有する" 小口化所有オフィスAシェア®とは >

暦年贈与と契約書に関する4つの注意点

贈与契約書を作成しただけでは安心できません。実際に暦年贈与をスムーズに進め、税務上のリスクを避けるためには、いくつかの重要な注意点があります。

1.贈与契約書の内容と「事実」を一致させる

作成した贈与契約書に書かれている内容と、実際に行われた贈与の事実が食い違っていては意味がありません。契約書は、あくまで「約束」を記録したものです。その「約束」が実際に果たされたかどうかが重要になります。

  • 契約書に記載した日付や金額、贈与方法で実行する
    契約書に「〇月〇日に〇〇円を銀行振込で贈与する」と書いたのに、実際には違う日に手渡しした、といったことがないようにしましょう。

  • 契約書を作成したら、必ず贈与を実行する
    「契約書だけ作って、贈与は後回しにしよう」はNGです。契約書は作ったが財産が全く動いていない、という状態は贈与が成立していない証拠となります。

  • 贈与を実行したら、その証拠を残す
    銀行振込の場合は「振込明細書」、不動産の場合は「登記事項証明書」など、贈与が確かに実行されたことを証明できる書類を必ず保管しておきましょう。これらの書類も、税務調査の際に贈与の事実を証明する重要な資料となります。

2.現金贈与の場合、銀行口座は必ず「受贈者」が管理する

現金の贈与を行う際、贈与者が受贈者名義の銀行口座に振り込む、あるいは手渡した現金をその口座に入れる、という方法が一般的です。このとき最も重要なのは、その銀行口座を「受贈者自身」が管理することです。

  • 名義預金と見なされるリスク
    親が子供や孫のために、子供や孫名義の口座を作り、そこに贈与資金を入金することはよくあります。しかし、その口座の通帳・カード・印鑑を贈与者(親や祖父母)が管理しており、受贈者(子供や孫)はその口座の存在すら知らない、あるいは自由に引き出して使うことができない状態では、税務署から「これは名義は受贈者だが、実質的な所有者は贈与者である」と判断され、「名義預金」として贈与者(死亡した場合は被相続人)の財産と見なされてしまいます。

  • 贈与の成立には「受贈者の認識と管理」が必要
    贈与は、財産を「あげる」「もらう」という双方の合意に基づき、財産の所有権が贈与者から受贈者に移転することで成立します。受贈者が自分の財産としてその存在を認識し、自由に管理・使用できる状態になっていなければ、法的に贈与は完了したとは言えません。

  • 贈与を受けたらすぐに受贈者自身が管理を始める
    贈与された資金を受け取ったら、受贈者が自分の判断でその資金を管理・運用することが重要です。例えば、受贈者自身の名義の口座に入金し、その通帳やカード、印鑑を受贈者自身が管理し、必要に応じて自分で引き出しや振込を行うようにしましょう。これにより、「この財産は確かに受贈者のものになった」という事実を明確にできます。贈与契約書と合わせて、口座の管理状況も贈与の証拠となります。

3.不動産など名義がある財産は「名義変更」を済ませる

現金だけでなく、不動産や株式など「名義」がある財産を贈与する場合も、贈与契約書を作成するだけでなく、速やかに名義変更(登記手続きなど)を済ませることが非常に重要です。

名義変更の手続きが完了して初めて、対外的にも「その財産が贈与者から受贈者のものになった」という事実が明確になります。これも、贈与契約書に記載された内容を「事実」として証明するために不可欠な手続きです。名義変更が完了したことを示す登記簿謄本などの書類も大切に保管しましょう。

4.相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される(令和6年改正)

暦年贈与による相続税対策を考える上で、近年行われた税制改正は非常に重要です。令和6年1月1日以降に発生した相続からは、被相続人(亡くなった方)が亡くなる前「7年以内」に行った暦年贈与が、相続財産に持ち戻して(加えて)相続税を計算する対象となります。

改正前は対象期間が3年以内でした。改正で延長された4年間(相続開始前3年超7年以内)の贈与については、その贈与財産の合計額から100万円を控除した上で相続財産に加算するという経過措置が設けられています。

この改正は、生前贈与による相続税対策の効果を弱めるものです。しかし、逆に言えば、7年より前に贈与した財産については、この持ち戻し計算の対象にはなりません。暦年贈与による節税効果を最大限に得るためには、できるだけ早く、長期的な計画で贈与を開始することが、これまで以上に重要になったと言えます。

"東京を資産として保有する" 小口化所有オフィスAシェア®とは >

贈与契約書作成のよくあるQ&A

最後に、贈与契約書の作成におけるよくある質問とその答えをQ&A集としてまとめました。

Q1.受贈者が未成年者の場合はどうする?

受贈者が未成年者(18歳未満)であっても、贈与を行うことは可能です。ただし、民法上、未成年者が契約を結ぶ際には、原則として親権者などの法定代理人の同意が必要となります。同意を得ずに契約を結んだ場合、後で未成年者本人や親権者がその契約を取り消すことができる可能性があります。

したがって、未成年者への贈与契約を結ぶ際は、贈与契約書に親権者の氏名と住所も記載し、親権者にも署名・捺印してもらうことを強くお勧めします。これにより、親権者の同意があったことを明確にし、後々のトラブルや契約の無効化を防ぐことができます。契約書には、未成年者本人の署名・捺印も必要です(漢字が書けない場合は名前だけでも構いません)。

Q2.相続時精算課税制度との併用は可能?

贈与税には、暦年課税と相続時精算課税という2つの課税方法がありますが、同じ贈与者からの贈与について、これらの制度を併用することはできません。

一度、ある贈与者からの贈与について相続時精算課税を選択すると、その後はその贈与者からの贈与は全て相続時精算課税が適用され、暦年課税に戻すことはできません。

ただし、これは「同じ贈与者から」という条件付きです。例えば、父親からの贈与については暦年課税を選択し、母親からの贈与については相続時精算課税を選択する、といったように、贈与者が異なる場合は、それぞれ別の課税方法を選択することができます。

相続時精算課税制度には2,500万円の特別控除があり、これとは別に年間110万円の基礎控除も使えるようになりました(令和6年改正)。どちらの制度を利用すべきかは、贈与者の年齢、贈与する財産の種類や金額、受贈者の状況などによって判断が異なります。税理士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

Q3.暦年贈与は年間110万円以下が良いと言われますが、あえて少し超えて贈与する方が良いという話も聞きます。これはなぜ?

年間110万円以下の贈与であれば贈与税はかからず、申告も不要です。これが暦年贈与の基本的な考え方です。しかし、あえて年間110万円を少しだけ超える金額を贈与し、少額でも贈与税を申告・納税するという方法が推奨されることがあります。

その主な理由は、「贈与税を申告・納税した」という事実が、税務署に対して「確かに贈与があったこと」の強力な証拠となるからです。年間110万円以下の非課税贈与の場合、申告義務がないため、税務署には贈与の事実を把握する情報が原則として残りません。税務調査が入った際に、契約書だけでなく「納税の事実」という公的な記録があれば、贈与が適正に行われたことをより明確に証明できます。

例えば、年間111万円の贈与を受けた場合、贈与税の課税対象は1万円です。この金額に対する贈与税額はわずか1,000円です。

ただし、必ずしも110万円を超える贈与をしなければならないわけではありません。年間110万円以下の贈与でも、贈与契約書を毎年作成し、銀行振込を利用して記録を残し、受贈者が口座を管理するなど、この記事で解説した他の注意点を守っていれば、贈与の事実を証明することは十分に可能です。ご自身の状況や考え方に応じて、最適な方法を選択してください。

"東京を資産として保有する" 小口化所有オフィスAシェア®とは >

まとめ

暦年贈与は、年間110万円の基礎控除を活用して計画的に財産を移転し、将来の相続税負担を軽減するための有効な相続税対策の一つです。しかし、その効果を確実に得るためには、単に財産を渡すだけでなく、税務上のリスクを回避するための適切な手続きが不可欠です。

特に重要なのは、贈与の事実を明確に証明できる「贈与契約書」を毎年作成することです。贈与契約書は、「定期贈与」と見なされるリスクを減らし、税務調査が入った際の説明資料となり、さらには相続時の親族間のトラブルを未然に防ぐ役割も果たします。

この記事では、贈与契約書の作成方法や具体的なひな形、そして作成だけでなく実際の贈与を行う上での注意点(契約書と事実の整合性、銀行口座の管理、名義変更、生前贈与加算期間など)について詳しく解説しました。

これらの情報を参考に、ぜひご自身の暦年贈与において贈与契約書を適切に作成・保管し、計画通りの相続税対策を進めていただければ幸いです。もしご不安な点があれば、税理士などの専門家に相談されることもご検討ください。

田中翼
田中タスク(著者)
エンジニアやWeb制作などIT系の職種を経験した後にFXと出会う。初心者として少額取引を実践しながらファンダメンタルやテクニカル分析を学び、現在は自動売買を中心に運用中。FXだけでなく日米のETFや現物株、商品などの投資に進出し、長期的な視野に立った資産運用のノウハウを伝える記事制作に取り組む。初心者向けの資産運用アドバイスにも注力し、安心の老後を迎えるために必要なマネーリテラシー向上の必要性を発信中。