
「大切な孫に、自分の財産を形として残したい」と考える祖父母の方は多いでしょう。孫への深い愛情から、財産を役立ててほしいと願う気持ちは自然なことです。
しかし、いざ「孫に遺産を渡す」となると、法律や税金の問題、家族間の調整など、様々なハードルがあると感じるかもしれません。特に、孫は法定相続人ではない場合が多く、そのままでは直接遺産を受け取れないことがほとんどです。また、相続税の負担についても、孫の場合は特別なルールが適用されることがあるため、事前にしっかりと確認しておく必要があります。
この記事では、「孫へ遺産を相続させる」ことを検討している初心者の方に向けて、孫に財産を確実に渡すための4つの方法と、相続税の負担を軽減させるための具体的な対策について、専門用語を避けながらわかりやすく解説します。
孫へ遺産を確実に渡すための4つの方法
孫への遺産相続は工夫が必要
まず、なぜ孫への遺産相続には特別な方法が必要なのでしょうか? それは、日本の民法で定められた「法定相続人」の範囲に関係しています。法定相続人とは、遺産を相続する権利が法律で認められている人のことです。一般的に、配偶者、子、父母、兄弟姉妹などが該当しますが、孫は、親(被相続人の子)が健在である場合は、原則として法定相続人にはなりません。
つまり、あなたが亡くなった時に、あなたの子ども(孫の親)が生きている場合、あなたの遺産は子どもが相続するのが基本的なルールです。このルール通りに進むと、孫には直接遺産が渡らないことになります。
孫に財産を残すためには、この法定相続のルールに沿わない形で、意図的に孫へ財産を移すための準備や手続きが必要になるのです。具体的な方法には、遺言書を作成したり、生きているうちに贈与したり、養子縁組をしたりするなど、いくつかの選択肢があります。
法定相続人ではない孫に、あなたの財産を確実に引き継いでもらうには、主に次の4つの方法があります。それぞれの方法には特徴やメリット・デメリットがありますので、あなたの状況や希望に合わせて検討することが大切です。
ここでは、孫に遺産を効果的に渡すための4つの方法について、特徴や注意点を解説します。
1.遺言書で「遺贈」する
「遺贈(いぞう)」とは、遺言書を使って、法定相続人ではない人や団体に財産を無償で譲り渡すことです。孫に財産を渡したい場合、遺言書に「私の財産の一部(または全部)を孫である〇〇に遺贈する」と明確に書くことで、あなたの死後、孫に財産を引き継がせることができます。
遺言書にはいくつかの種類がありますが、孫への遺贈を確実に行うためには、以下の2つの主要な形式があります。
自筆証書遺言
遺言者自身が、全文、日付、氏名をすべて手書きし、押印して作成する遺言書です。費用がかからず手軽に作成できますが、書き方に不備があると無効になったり、紛失や偽造のリスクがあったりする点に注意が必要です。2020年7月からは、自筆証書遺言を法務局に保管する制度がスタートし、紛失や偽造のリスクを減らせるようになりました。公正証書遺言
公証役場で、公証人と証人2名以上の立ち会いのもと作成される遺言書です。専門家である公証人が法律に沿った形で作成するため、無効になるリスクが非常に低く、最も確実性が高い方法とされています。費用はかかりますが、安心できる方法と言えるでしょう。
遺言書を作成する際には、特定の財産を孫に遺贈する内容を明確に記述するように心がけてください。例えば、「私の所有する〇〇市〇〇町の土地と建物を孫の〇〇に遺贈する」といった具体的な記述が必要です。
【遺言書による遺贈の注意点】
遺留分に配慮する
遺留分とは、法定相続人(配偶者、子、父母など)が法律で保証されている最低限の遺産の取り分です。遺言書で孫に多くの財産を遺贈しすぎると、他の法定相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があります。遺留分を侵害された法定相続人から「遺留分侵害額請求」を受けると、孫は受け取った財産の一部を返還しなければならない場合があるため、遺留分には十分配慮して遺言の内容を検討しましょう。遺言執行者を指定する
遺言の内容を実現するための手続き(名義変更や預金の払い戻しなど)をスムーズに進めるために、遺言執行者を指定しておくことをお勧めします。親族や専門家(弁護士、司法書士など)を指定できます。
出典:法務省 自筆証書遺言書保管制度について
出典:国民生活センター 自筆証書遺言を法務局で保管する制度がスタート
2.生前贈与を活用する
生前贈与の大きなメリットは、元気なうちに孫に財産を渡せること、そして贈与の仕方を工夫することで相続税の節税につながる可能性があることです。生前贈与でよく利用されるのが、暦年贈与と呼ばれる方法です。
- 暦年贈与
1月1日から12月31日までの1年間で、1人の人から受け取った財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税がかからず、税務署への申告も不要です(これを贈与税の基礎控除枠といいます)。この非課税枠を毎年利用して、少しずつ財産を孫に移していくことで、将来の相続財産を減らし、相続税の負担を軽減する効果が期待できます。例えば、孫が複数人いれば、それぞれの孫に毎年110万円ずつ贈与することも可能です。
【生前贈与の注意点】
贈与税がかかる場合がある
年間の贈与額が110万円を超える場合は、その超えた金額に対して贈与税がかかります。贈与税は相続税よりも税率が高くなる場合が多いため、一度に多額の贈与をすると、かえって税金が高くなる可能性があります。計画的に非課税枠を活用することが重要です。名義預金に注意
孫名義の預金口座を作っていても、その口座の管理やお金の出し入れを祖父母が行っており、孫が自由に使える状態になっていない場合、「名義預金」とみなされ、贈与が成立していないと判断されることがあります。この場合、亡くなった時に祖父母の財産として相続税の対象となるため、贈与する際は実際に孫に財産を渡し、孫が管理できるようにすることが重要です。相続発生前の贈与は相続税の対象に加算される(持ち戻し)
亡くなる直前に行われた贈与については、相続財産に持ち戻して相続税を計算するルールがあります。現在の法律では、亡くなる前の7年間に行われた贈与が持ち戻しの対象となります(対象期間は順次延長され、2031年以降は10年間となる予定です)。非課税枠内の贈与であっても、持ち戻しの対象となる場合があるため注意が必要です。家族間の合意が重要
生前贈与は、他の相続人(あなたの子どもなど)の期待する相続分を減らすことになる可能性があります。後々のトラブルを防ぐためにも、事前に家族間でしっかりと話し合い、理解を得ておくことが望ましいです。
出典:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
3.孫と養子縁組をする
養子縁組をして孫を法定相続人にする方法があります。
孫が法定相続人になれば、孫は遺産を直接相続できるようになります。孫養子とすることの最大のメリットは、相続税の基礎控除額を増やせる点です。
相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。法定相続人が増えれば、その分基礎控除額が増え、相続税がかかる財産の総額を減らせる可能性があります。養子である孫も、法定相続人としてこの計算に含まれます。
【養子縁組の注意点】
法定相続人として数えられる養子の数には制限がある
相続税の計算において、基礎控除を計算する際の法定相続人の数に含められる養子の数には制限があります。実子がいる場合は養子を1人まで、実子がいない場合は2人までと定められています。ただし、この制限はあくまで相続税の計算上の話であり、養子縁組自体は何人でも可能です。相続税が2割加算される場合がある
孫が養子となり遺産を相続する場合、原則としてその相続税額に2割が加算されます。これは、孫は配偶者や子(実子・代襲相続した孫を除く)よりも相続順位が下位であるとみなされるためです。相続税の基礎控除は増えますが、税額自体が高くなる可能性があるため、養子縁組が必ずしも節税につながるとは限りません。トータルの税負担を慎重に計算する必要があります。家族関係の変化
養子縁組は、単に法律上の親子関係を結ぶだけでなく、家族構成や親族関係に大きな変化をもたらします。孫の実の親(あなたの子ども)や他の親族との関係に影響を与える可能性もあるため、家族全員で十分に話し合い、合意の上で進めることが非常に重要です。節税目的だけを前面に出すと、家族間のトラブルを招く恐れがあります。
4.代襲相続をする
代襲相続とは、本来相続人となるはずだったあなたの「子」(孫から見れば親)が、あなたより先に亡くなっている場合などに、その子に代わって孫が相続する権利を引き継ぐ制度です。
代襲相続が発生した場合、孫はあなたの法定相続人となり、亡くなった親(あなたの子)が受け取るはずだった相続分をそのまま相続することができます。
【代襲相続の特徴】
事前の計画は難しい
代襲相続は、あくまで相続が開始された時点での状況(子どもの死亡など)によって自動的に発生する制度です。そのため、「孫に代襲相続させるために」と意図して事前に計画することは基本的にできません。遺言書や生前贈与のように、あなたの意思で孫への相続を実現する方法とは性質が異なります。相続税の2割加算が適用されない
代襲相続によって孫が遺産を相続する場合、養子縁組による相続とは異なり、相続税の2割加算は適用されません。これは、孫が亡くなった親の立場を引き継いで相続すると考えられるためです。税負担の面ではメリットと言えるでしょう。遺産分割協議が必要になる場合がある
代襲相続が発生した場合、代襲相続人となった孫も他の相続人(あなたの配偶者など)と一緒に遺産分割協議に参加することになります。他の相続人との間で意見の対立が生じる可能性もあるため、遺産分割に関しては専門家のアドバイスを受けながら進めると安心です。
代襲相続は、あなたが孫に財産を渡したいと願う場合に「意図して起こせる」ものではありません。しかし、もしあなたの亡くなる前に子どもが亡くなった場合、孫が代襲相続人となる可能性があることを知っておくことは重要です。相続計画を立てる際は、代襲相続に頼るのではなく、遺言書や生前贈与など、他の方法を検討するのが現実的です。
孫が相続したときにかかる税金について
一般的に、相続に伴う税金の問題は複雑で、しばしば悩みの種となります。特に孫が相続人となる場合、適用される税金の種類や計算方法の正確な理解は必須です。
孫が相続する際に課せられる可能性のある主な税金は次のとおりです。
1.相続税
相続税は、亡くなった人から財産を受け継いだ際にかかる税金です。孫が遺贈を受けたり、養子として相続したり、代襲相続によって財産を受け取ったりした場合にかかります。
相続税は、相続財産の総額から借金などのマイナス財産や、葬儀費用などを差し引き、さらに相続税の基礎控除額を差し引いた金額(課税遺産総額)に対して計算されます。
基礎控除額は、2024年現在、「3000万円+(600万円×法定相続人数)」です。孫が法定相続人(養子や代襲相続人)となる場合は、この法定相続人の数に孫が含まれるため、基礎控除額が増える可能性があります。
相続税の申告と納税には期限があります(原則として、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内)。遺産分割協議書などの必要書類を準備し、間違いのないように手続きを進める必要があります。相続財産の評価や税額の計算は複雑になることが多いため、不安な場合は税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
【相続税の2割加算に注意】
前述しましたが、孫が遺贈を受けたり、養子として相続したりする場合、受け取る財産にかかる相続税額には原則として2割が加算されます(代襲相続の場合を除く)。これは、孫が故人の配偶者や子よりも相続順位が下位であると見なされるためです。この2割加算は、孫への相続における税負担を重くする大きな要因となります。
2.贈与税
贈与税は、生きている人から財産を無償で受け取った場合にかかる税金です。祖父母から孫への生前贈与がこれにあたります。
年間110万円までの贈与は、贈与税の基礎控除により贈与税がかかりません。しかし、年間110万円を超える贈与を受けた場合、贈与を受けた孫自身が贈与税を計算し、税務署に申告・納税する必要があります。
贈与税の税率は、受け取った金額によって異なりますが、暦年贈与の場合の税率は相続税と比べて高めの設定になっています(ただし、孫への贈与の場合は「特例贈与」として税率が軽減される場合があります)。贈与の記録(贈与契約書など)をしっかりと保管し、適切に申告と納税を行うことが重要です。
出典:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
3.不動産に関する税金「不動産取得税・登録免許税」
祖父母から孫へ不動産(土地や建物)を渡す場合、相続税や贈与税だけでなく、不動産に関する税金もかかる可能性があります。主なものは以下の2つです。
不動産取得税
不動産を取得した際に、その不動産がある都道府県に対して支払う税金です。ただし、相続によって不動産を取得した場合は、原則として不動産取得税はかかりません。一方、遺贈や生前贈与で不動産を取得した場合は、不動産取得税がかかるため注意が必要です。税額は、不動産の評価額に一定の税率をかけて計算されます。登録免許税
不動産の所有者を変更する登記手続きを行う際に、国に支払う税金です。相続や遺贈、贈与など、どのような原因で不動産を取得した場合でも、名義変更(所有権移転登記)を行う際に登録免許税がかかります。税率は、取得原因によって異なります。相続による取得の場合:不動産の評価額の0.4%
遺贈や生前贈与による取得の場合: 不動産の評価額の2.0%
このように、不動産を渡す方法によってかかる税金の種類や税率が異なります。不動産の評価額によって税額も大きく変わるため、事前にこれらの税金についても把握しておくことが重要です。
孫にかかる相続税を軽減させる5つの方法
孫への相続や贈与には相続税の2割加算などの税負担が生じる可能性がありますが、いくつかの制度を活用することで、その負担を軽減できる場合があります。ここでは、孫への相続税や贈与税の負担を抑えるための具体的な方法を5つご紹介します。
相続税を軽減させる代表的な方法は次のとおりです。ここでは、孫への相続税負担を軽減させる具体的な方法について詳しく解説します。
1.「特例贈与」を利用する
贈与税には、「一般贈与」と「特例贈与」の2種類の税率があります。特例贈与の税率は、一般贈与よりも低く設定されており、税負担を抑えることができます。
特例贈与が適用されるのは、直系尊属(祖父母や父母など)から、18歳以上の子や孫への贈与です。祖父母から18歳以上の孫への贈与は、この特例贈与の対象となります。
例えば、祖父母が18歳以上の孫に1,000万円を贈与する場合で考えてみましょう。
まず、基礎控除額110万円を差し引いた890万円が課税対象額となります。890万円に特例贈与の税率(20%)をかけ、控除額30万円を差し引いて贈与税額を計算します。
(890万円 × 20% - 30万円 = 148万円)
このように、特例贈与の税率が適用されることで、同じ金額を一般贈与として贈与する場合よりも贈与税の負担を軽減できます。この制度を利用すれば、祖父母は孫の教育資金や将来の資金を支援しやすくなり、孫は受け取った資金を有効活用できるようになります。
出典:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
2.「教育資金の一括贈与」を利用する
教育資金の一括贈与の非課税措置とは、祖父母(または父母)が30歳未満の孫(または子)に対して、教育資金として最大1,500万円までをまとめて贈与した場合に、一定の要件を満たせば贈与税が非課税になる制度です。
この制度で贈与された資金は、学校の入学金や授業料、学用品の購入費、修学旅行費、さらには学習塾や習い事の月謝、留学費用など、幅広い教育関連費用に充てることができます。
この制度を利用するためには、金融機関と契約を結び、孫名義の口座で資金管理を行います。教育資金を使った際には領収書などの証明書類を金融機関に提出し、教育資金として使われたことを確認してもらう必要があります。期限内に教育資金として使い切れなかった残額には、贈与税がかかる場合があります。孫の進学や教育を経済的に支援したいと考える祖父母にとって、非常に有効な非課税制度です。
出典:国税庁 No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
3.「結婚・子育て資金の一括贈与」を利用する
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置とは、祖父母(または父母)が18歳以上50歳未満の孫(または子)に対して、結婚費用や子育て費用として最大1,000万円までをまとめて贈与した場合に、一定の要件を満たせば贈与税が非課税になる制度です。
この制度で贈与された資金は、結婚式費用、新居の購入・家賃、引越し費用、不妊治療費、子の医療費・保育料など、結婚や子育てに関する幅広い費用に充てることができます。
利用には教育資金贈与と同様に金融機関との契約や使途の証明が必要です。この制度も期限が定められており、期限内に使い切れなかった資金には贈与税がかかる場合があります。
孫の新たな人生のスタートや子育てを経済的にサポートしたい祖父母にとって、非常に役立つ非課税制度です。
出典:国税庁 No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税
4.「住宅取得資金贈与」を利用する
住宅取得等資金贈与の非課税措置とは、祖父母(または父母)が子や孫に対して、マイホームの新築、取得、増改築のための資金として贈与した場合に、一定の要件を満たせば贈与税が非課税になる制度です。非課税となる金額は、住宅の種類や契約の時期によって異なりますが、最大で1,000万円(質の高い住宅の場合は最大1,500万円)まで非課税になる場合があります。
この特例を利用すれば、祖父母は孫が自身の家を持つという大きな夢を経済的に支援できます。資金は、土地購入費用や住宅ローンの返済にも充てられるなど、住宅取得に関連する幅広い用途に利用可能です。
この制度を利用するためには、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与された資金を使って住宅の新築・取得・増改築をすることや、贈与を受けた孫がその住宅に住むことなど、様々な要件を満たす必要があります。また、贈与税の申告も必要です。
出典:国税庁 No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
5.「相続時精算課税制度」を利用する
相続時精算課税制度は、祖父母(または父母)から18歳以上の子や孫への生前贈与について、贈与時には特別控除を適用し、贈与者が亡くなった時に、その贈与財産と相続財産を合計して相続税を計算し、既に支払った贈与税があれば相続税から差し引く(精算する)という制度です。
この制度を利用すると、合計2,500万円までの贈与であれば、贈与税が非課税となります(これを超えた部分には一律20%の贈与税がかかります)。さらに、2024年からは、この特別控除とは別に、年間110万円までの基礎控除枠も設けられました。これにより、年間110万円以下の贈与であれば、相続時精算課税制度を利用していても贈与税の申告が不要となり、さらに持ち戻しの対象にもなりません(ただし、この基礎控除部分以外の贈与については、相続発生時に持ち戻しの対象となります)。
この制度の大きなメリットは、多額の財産を一度に(または複数年に分けて)贈与しやすい点です。また、将来値上がりしそうな財産(不動産など)を早めに贈与することで、評価額が低い段階で税金対策ができる可能性があります。
【相続時精算課税制度の注意点】
一度選択すると撤回できない
この制度を一度選択すると、同じ贈与者からの贈与については、その後暦年贈与に戻すことはできません。全ての贈与財産が相続財産に持ち戻される
贈与された財産は、金額の大小に関わらず、全て相続発生時の相続財産に合計されて相続税が計算されます(2024年以降の年間110万円の基礎控除部分を除く)。つまり、贈与税はかからなくても、将来相続税がかかる可能性はあります。小規模宅地等の特例が適用できない場合がある
居住用の土地などを贈与した場合、相続税の計算で使える特例(小規模宅地等の特例)が適用できなくなる可能性があります。贈与を受けた孫は相続放棄しても相続税の対象となる場合がある
相続時精算課税制度を利用して贈与を受けた孫は、たとえ相続放棄をしたとしても、生前贈与で受け取った財産については相続税の計算対象となります。
相続時精算課税制度は、暦年贈与とは全く異なる考え方の制度です。どちらの制度がご自身の状況に適しているか、将来の相続税負担も踏まえて慎重に検討する必要があります。
孫に相続させるときの注意点
孫に財産を渡すことは、多くの祖父母の願いですが、一方でいくつかの重要な注意点があります。これらを無視してしまうと、思わぬトラブルや税負担の増大につながることがあります。
他の相続人の相続分が減りトラブルになりやすい
孫への遺贈や生前贈与は、法定相続人であるあなたの子どもたちの相続分を減らすことになります。あなたの財産全体のパイが決まっている中で、孫に渡す分が増えれば、子どもたちが受け取れる分は自然と減るからです。
これにより、子どもたちの間で「なぜ自分たちの取り分が減るのか」といった不満が生じ、遺産分割をめぐるトラブルに発展するケースが少なくありません。特に、遺言書で孫に多額の財産を遺贈した場合、他の法定相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があり、遺留分侵害額請求をされるリスクがあります。
このようなトラブルを避けるためには、
- 事前に子どもたちに孫への相続の意思や理由を伝えて話し合う
- 遺留分に配慮した遺産分割案を考える
- 遺言書を作成する場合は、付言事項(なぜそのように分けるのか、家族への思いなど)を書き添える
- 必要であれば、税理士や弁護士といった第三者の専門家を交えて話し合いを進める
といった配慮が非常に重要です。家族間の円満な関係を保ちつつ、孫に財産を引き継がせるための計画を立てましょう。
相続税の「2割加算」に注意が必要
既に何度か触れましたが、孫が相続や遺贈によって財産を取得する場合、原則として相続税額が2割加算されるという非常に重要なルールがあります。これは、故人の配偶者や一親等の血族(子、父母)以外の人が財産を取得する場合に適用されるものです。
この2割加算は、孫への相続税負担を大きく押し上げる要因となります。例えば、相続税額が1,000万円だった場合、2割加算されると1,200万円の納税が必要になるということです。
ただし、代襲相続によって孫が相続する場合は、この2割加算は適用されません。これは、代襲相続人が亡くなった親(あなたの子)の立場を引き継ぐと見なされるためです。
孫への相続を検討する際は、この2割加算の影響額を必ず考慮に入れ、税理士などの専門家にシミュレーションしてもらうことをお勧めします。生前贈与(特に非課税制度の活用)など、他の方法を組み合わせることで、この2割加算の影響を抑えられる場合もあります。
まとめ
孫へ遺産を相続させることは、祖父母の愛情を示す素晴らしい方法ですが、そのためにはいくつかの方法を理解し、適切な手続きを行う必要があります。この記事では、孫に財産を確実に渡すための「遺言書による遺贈」「生前贈与」「養子縁組」「代襲相続」という4つの方法と、相続税・贈与税の負担を軽減するための「特例贈与」「教育資金の一括贈与」「結婚・子育て資金の一括贈与」「住宅取得等資金贈与」「相続時精算課税制度」といった具体的な対策について詳しく解説しました。
どの方法を選ぶかによって、手続きの複雑さ、かかる税金の種類や金額、そして家族関係への影響が異なります。特に、孫への相続には相続税の2割加算という特別なルールがあること、そして他の相続人(あなたの子どもなど)との間でトラブルになる可能性がある点には、十分注意が必要です。
孫への相続をスムーズに進め、将来の税負担を最小限に抑え、何よりもご家族全員が円満でいられるようにするためには、早い段階から計画を立て、ご家族としっかりと話し合うことが非常に大切です。
孫への相続に関することや、相続税・贈与税の計算、各種特例制度の活用方法など、複雑で分かりにくい点も多いかと思います。ご自身の状況に合った最適な方法を見つけ、安心して手続きを進めるためには、相続や税務に関する専門家(税理士、弁護士、司法書士など)に相談することをお勧めします。

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