
「親族との遺産分割で、不動産の価値をめぐって話がまとまらない…」「長年所有してきた土地を売却したいが、不動産会社が出してきた査定額が妥当なのか分からない」「相場より安く売ってしまい、後から後悔したかもしれない…」
不動産の相続や売買の場面で、このような悩みやトラブルは後を絶ちません。その多くは、不動産の「適正な価値」を誰もが客観的に把握できていないことが原因で起こります。
不動産の価値は、一つとして同じものがなく、専門家でなければ正確に判断するのは困難です。しかし、正しい価値を知らないまま話を進めてしまうと、思わぬ損をしたり、大切な家族との間に溝が生まれたりする可能性があります。
そこで頼りになるのが、不動産価値評価の唯一の国家資格者である「不動産鑑定士」です。
本記事では、不動産会社の「査定」と不動産鑑定士による「鑑定評価」の決定的な違いから、鑑定評価があなたの資産と家族を守るためにどう役立つのか、具体的な活用シーンを交えて分かりやすく解説します。
- 不動産会社の「査定」は売却の参考価格であり、公的証明力はないのに対し、不動産鑑定士の「鑑定評価」は法律に基づく客観的な価値証明で、税務署や裁判所でも通用する。
- 鑑定評価は遺産分割協議、親族間売買、離婚の財産分与、相続税・贈与税申告、隣地トラブルや家賃交渉など、公平性・証明力が必要な場面で特に有効。
- 鑑定評価を依頼する場合は、相談・契約・調査・評価・報告の4ステップで進め、個人住宅地や戸建てでの費用目安は20万~30万円程度。
- 適正な不動産価値を専門家に確認することで、損失回避やトラブル防止につながり、大切な資産や家族関係を守ることができる。
「査定」と「鑑定評価」は全くの別物!
不動産の価値を知りたい時、多くの人がまず思い浮かべるのは不動産会社への相談かもしれません。しかし、不動産会社が行う「査定」と、不動産鑑定士が行う「鑑定評価」は、その目的も性質も全く異なります。
結論から言えば、「査定」は売却のための参考価格であり、「鑑定評価」は公的に通用する客観的な価値の証明です。
不動産会社の「査定」とは?
不動産会社に依頼すると、無料で「査定書」を作成してくれることがほとんどです。これは、あくまで「このくらいの価格なら市場で売れるだろう」という売却予想価格を示したものです。
目的:売買仲介の契約を得るための営業活動の一環。
算出根拠:近隣の類似物件の成約事例や現在の売出事例が中心。
特徴:無料だが、公的な証明力はない。また、売主の関心を引くために相場より高めの価格を提示するなど、会社によって金額にばらつきが出やすい傾向がある。
査定は、売却活動を始める際の価格設定の参考にはなりますが、その金額が不動産の絶対的な価値を示すものではないことを理解しておく必要があります。
不動産鑑定士の「鑑定評価」とは?
一方、不動産鑑定士が行う「鑑定評価」は、不動産の客観的な価値を判定し、公的に証明するものです。
目的:法律に基づき、対象不動産の適正な価値を中立的な立場から判定すること。
算出根拠:「不動産の鑑定評価に関する法律」に基づき、周辺の取引事例だけでなく、その土地が将来生み出すであろう収益や、造成・建築にかかる費用など、多角的な視点から価値を分析。
特徴:有料だが、国家資格者である不動産鑑定士が署名・捺印した「不動産鑑定評価書」は、税務署や裁判所といった公的機関に対しても通用する強い証明力を持つ。
【査定と鑑定評価の違い】
項目 | 不動産会社の「査定」 | 不動産鑑定士の「鑑定評価」 |
---|---|---|
目的 | 売買仲介契約の獲得(営業) | 不動産の客観的な価値の判定 |
実施者(資格) | 不動産会社の営業担当者(特別な資格は不要) | 国家資格者である不動産鑑定士 |
費用 | 原則無料 | 有料 |
信頼性・証明力 | 参考情報(公的な証明力なし) | 公的な証明力あり(税務署・裁判所で通用) |
活用場面 | 不動産の売却価格を決める際の参考 | 遺産分割、財産分与、税務申告、裁判など |
こんな時は不動産鑑定士に相談!具体的な活用シーン5選
では、どのような場面で不動産鑑定士の「鑑定評価」が有効になるのでしょうか。ここでは代表的な5つのシーンをご紹介します。
シーン1:遺産分割協議を円満に進めたい時
相続財産に不動産が含まれる場合、その評価額をめぐって相続人間で意見が対立し、「争続」に発展するケースは少なくありません。鑑定評価書があれば、誰もが納得できる客観的な価値基準ができるため、公平で円満な遺産分割協議を進めるための大きな助けとなります。
シーン2:適正価格で不動産を売買したい時
土地の形が不整形であったり、接している道路が狭かったりと、一般的な相場が分かりにくい不動産を売却する際に鑑定評価は有効です。客観的な価値を知ることで、安売りしてしまうリスクを防げます。また、親族間で不動産を売買する際には、税務署から「贈与ではないか」と指摘されないよう、鑑定評価書によって適正な価格での取引であることを証明する必要があります。
シーン3:離婚で財産分与をする時
夫婦で築いた共有財産である不動産をどう分けるかは、離婚協議における重要なポイントです。不動産鑑定士に評価を依頼することで、公平な財産分与を行うための客観的な金額の根拠を得ることができます。
シーン4:相続税・贈与税の申告で
相続税などを計算する際、土地の評価は通常「路線価」を基準にしますが、土地の形状や立地条件によっては、路線価で算出した評価額が実態より高くなってしまうことがあります。このような場合に鑑定評価を取り、その土地の個別性を反映したより低い評価額で申告することで、納税額を抑えられる可能性があります。
シーン5:隣地とのトラブルや家賃交渉など
隣地の一部を買い取りたい、地代や家賃の改定を交渉したい、といった場面でも鑑定評価は役立ちます。当事者間の話し合いだけでなく、裁判に発展した場合にも、鑑定評価書は専門家による客観的な証拠として極めて有力な資料となります。
鑑定評価を依頼する流れと費用の目安
実際に不動産鑑定士に依頼する場合、どのような流れで進み、費用はどのくらいかかるのでしょうか。
依頼から鑑定評価書受け取りまでの4ステップ
①相談・見積もり
まずは不動産鑑定事務所のウェブサイトなどから連絡を取り、評価したい不動産の場所や目的を伝えて相談します。ほとんどの場合、この段階で無料の見積もりを出してくれます。
②契約
提示された費用や納期に納得できれば、正式に業務を依頼し、契約を結びます。
③調査・評価
契約後、不動産鑑定士が現地を訪れて状況を確認したり、法務局や役所で権利関係・法令上の規制を調査したりと、専門的な調査・分析を行います。
④報告・納品
すべての調査・評価作業が完了すると、「不動産鑑定評価書」が完成します。鑑定士から評価内容について詳しい説明を受け、成果物として受け取ります。
費用の目安は?
鑑定評価の費用は、不動産の種類(土地、一戸建て、マンションなど)や規模、所在地、評価の目的によって異なりますが、個人が所有する一般的な住宅地や戸建てであれば、20万円~30万円程度が一つの目安となります。
決して安い金額ではありません。しかし、例えば遺産分割で100万円単位のトラブルに発展するのを防げたり、売却時に数百万円も安く売ってしまう事態を避けられたりすると考えれば、将来の安心と利益を守るための有効な投資と捉えることができるでしょう。
まとめ
この記事では、不動産鑑定士の役割と上手な活用法について解説しました。大切なのは、不動産会社が提示する「査定」が、あくまで売却のための参考価格に過ぎないのに対し、不動産鑑定士による「鑑定評価」は、税務署や裁判所でも通用する公的な価値証明であるという根本的な違いを理解することです。
この客観性と証明力があるからこそ、鑑定評価は特に相続や財産分与、親族間売買といった、公平性が強く求められる場面でその真価を発揮します。利害関係者が複数いる複雑な状況でも、誰もが納得できる基準となり、トラブルを未然に防ぐ羅針盤となるのです。大切な資産だからこそ、その価値は専門家の力を借りて正しく把握することが重要です。