投資信託の解約について徹底解説!注意点も知っておこう
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目次

  1. 新NISAスタートで注目が高まる投資信託
  2. 投資信託は解約できるのか?
  3. 実は販売額よりも解約・償還額のほうが多い
  4. 投資信託を一定期間解約できない「クローズド期間」の有無に注意
  5. 投資信託の解約を検討するケース
  6. 投資信託の解約方法
  7. 投資信託解約の税制優遇
  8. 投資信託を解約する場合の注意点
  9. 解約手続き不要で換金できるETFやJ-REITが便利
  10. 投資信託の解約で失敗しないための3ヵ条
  11. 遺産相続における投資信託の評価方法
  12. 投資信託は長期投資が基本、余裕資金で運用しよう

2024年にスタートした新NISAで「つみたて投資枠」の対象になっている商品が投資信託です。

初めて投資信託を購入する人にとって気になるのは、「資金が必要になったときに解約できるかどうか」でしょう。そこで、投資信託の解約と注意点について解説します。

新NISAスタートで注目が高まる投資信託

2024年1月からNISA(少額投資非課税制度)が拡充され、対象商品である投資信託の注目度が高まっています。

NISAには「成長投資枠」と「つみたて投資枠」の2つがあります。

成長投資枠とつみたて投資枠の年間投資限度額と対象の投資信託は、下表のとおりです。

つみたて投資枠と成長投資枠は併用できるので、年間360万円まで投資信託を購入することができます。

年間投資枠非課税保有限度額対象になる投資信託
つみたて投資枠120万円最大1,800万円
(枠の再利用可能)※1
長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託
成長投資枠240万円最大1,200万円(内数)※2信託期間20年未満、毎月分配型の投資信託及びデリバティブ取引を用いた一定の投資信託を除外した投資信託
※1 残高が1,800万円以内なら枠の再利用が可能です。
※2 成長投資枠は1,800万円のうち1,200万円までしか利用できません。成長投資枠を1,200万円利用した場合は、つみたて投資枠の非課税保有限度額は600万円となります。
出典:金融庁 新しいNISA

投資信託は解約できるのか?

余裕資金で投資信託を購入したとしても、お金が必要になるときもあるでしょう。

投資信託は、原則として解約することができます。解約は投資信託を購入した販売会社に請求します。最近は、Webサイトやアプリから請求できる証券会社もあるので便利になりました。

実は販売額よりも解約・償還額のほうが多い

金融庁が公表している「投資信託等の販売会社に関する定量データ分析結果」によると、2016~2020年度の5年間のうち、2016年度、2018年度、2019年度は投資信託の販売額よりも解約・償還額のほうが多くなっています。

金融庁では、「過去に多く販売された毎月分配型の影響で、分配金の支払いにより投資元本が減少していることが要因」と分析しています。

投資信託を一定期間解約できない「クローズド期間」の有無に注意

注意しなければならないのが、投資信託の中には一定期間解約ができない「クローズド期間」が設定されているファンドがあることです。

クローズド期間は、解約によって資金が減少するのを防ぐために設けられている仕組みです。

クローズド期間の長さはファンドによって異なり、設定していないファンドもあります。クローズド期間の有無は、目論見書で確認することができます。

投資信託の解約を検討するケース

投資信託を解約する理由はさまざまですが、よくあるケースは以下のとおりです。

1.急にお金が必要になって投資信託を換金したいとき

使う予定のなかった資金で投資信託を購入した場合でも、急にお金が必要になった時は換金する必要が生じます。

換金できないことがないよう、クローズド期間がないか目論見書で確認しておきましょう。投資信託は株式のように手軽に換金できる商品ではないことを考慮して、投資する必要があります。

2.ポートフォリオのリバランスで投資信託を売却したいとき

自分でポートフォリオを組んでいる人もいるでしょう。ポートフォリオの中に投資信託を組み入れている場合は、他の資産カテゴリーとのバランスを保つ必要があります。

例えば、日本株の株式投資信託、外国株の株式投資信託、国内債券、外国債券の比率をそれぞれ25%に設定して運用している場合、日本株の急騰で30%を大幅に超えたようなケースではリバランスを行う必要があります。

日本株の投資信託を売却して、その利益で他のカテゴリーの資産を買い増すことで、当初設定した比率に戻すことができます。

3.投資信託価額が想定以上に上がった時または下がったとき

ポートフォリオを組んでいない場合でも、保有している投資信託が当初想定した以上に値上がりしたとき、または大きく値下がりした時は解約のタイミングとなる場合があります。

値上がりの例は、2024年の日経平均株価がバブル期の高値を約34年ぶりに更新する大相場です。

日経平均株価が上がれば、多くの株式投資信託も連動して上がります。その結果「値上がりしているうちに利益を確定したい」という人が増えます。

値下がりの例として、2020年に起きたコロナショックによる大暴落が挙げられます。暴落が起こると「どこまで下がるかわからないので早く解約したい」という人が増え、値下がりが加速します。

そのため、購入する前に「どの程度まで上がったら売却する」という利益目標や、「いくらまで下落したら損切りする」などを決めておくとスムーズに判断することができます。

4.繰上償還になる可能性があるとき

投資信託の純資産が減少すると運用が難しくなり、繰上償還が行われることがあります。一般的に、投資信託の純資産額は最低でも10億円が必要といわれています。

10億円を下回る見込みであれば繰上償還が行われる可能性があるので、利益が出ているなら償還される前に売却を検討するとよいでしょう。

繰上償還が行われる、償還日の取引終了後に資産価格をもとに償還金額が決定されます。決算の結果、利益が出るケースと損失を被るケースがあります。

投資信託の解約方法

投資信託の解約方法には、解約請求と買取請求の2つの方法があります。どちらも販売会社(証券会社、銀行、郵便局など)に請求するため、解約方法に大きな違いはありません。

1.投資信託の解約請求

解約請求は、投資家が投資信託を販売した会社に解約を請求し、販売会社を通して運用会社から信託財産の払い戻しを受ける仕組みです。特に難しい手続きはありません。

解約の手順は以下のとおりです。

投資信託の解約の手順
  • 1. 販売会社の公式サイトやスマホアプリなどから解約を請求する
  • 2. 販売会社から運用会社に解約請求があったことを伝える
  • 3. 支払金額が確定したら指定した口座に代金が入金される

2.投資信託の買取請求

買取請求は、投資家が投資信託を販売した会社に買い取ってもらう方法です。投資家が販売会社に買取を請求し、販売会社が投資家に換金したお金を支払う仕組みになっています。

運用資産の減少を招く解約と異なり、投資家が保有していた投資信託は販売会社が買い取るため、運用資産が減少することはありません。これが解約と買取の大きな違いです。

平成21年度の税制改正により、公募株式投資信託を換金して得た利益は、解約・買取に関わらず、譲渡所得となりました。したがって、解約方法による課税方式の違いはありません。

投資信託解約の税制優遇

解約または買取を請求して受け取った代金は申告分離課税で譲渡所得になるため、損失が出た場合は他の投資信託や上場株式の分配金や配当金との損益通算ができます。

一定の手続きを行うことによって、「源泉徴収ありの特定口座」の中であれば、確定申告をせずに損益通算が可能です。

2009年1月以前は、買取請求は譲渡所得、解約請求は配当所得に分類されていましたが、法改正で譲渡所得に一本化されたため、便利になりました。

ただし、NISA口座で保有している投資信託や上場株式の分配金や配当金との損益通算はできません。

投資信託を解約する場合の注意点

投資信託を解約する場合は、以下の3点を確認してから行いましょう。

1.投資信託を解約してもすぐに現金化できない

投資信託は、解約を請求してもすぐに現金化できるわけではありません。

MRF(マネー・リザーブ・ファンド。証券総合口座内で預かっている資金を効率良く運用するために自動買付が行われる投資信託)などの日々決算型以外の投資信託は、解約を申し込んでから実際にお金が口座に振り込まれるまで4営業日かかります。

お金が必要な日が決まっている場合は、余裕を持って解約を請求することが大切です。

2.投資信託の解約には費用がかかる

投資信託は、解約時に所定の費用がかかります。

費用の内訳は解約手数料と信託財産留保額ですが、現在は解約手数料がかからないファンドがほとんどなので、信託財産留保額が実質的な解約時の費用となります。ただし、信託財産留保額がかからないファンドもあります。

信託財産留保額は解約請求により投資信託を換金するコストで投資家が負担します。中途解約のペナルティのようなものと考えるとわかりやすいでしょう。

料率は商品によって異なりますが、0.3%程度が相場です。解約代金から信託財産留保額が差し引かれる形で支払われます。

【信託財産留保額の計算例】解約手数料なし、信託財産留保額0.3%、1口価額1万円の投資信託を解約した場合

1万円×0.3%=30円
1万円-30円=9,970円(受取金額)

3.投資信託の解約で利益が出た場合は課税される

投資信託を解約して利益が出た場合は、20.315%(復興特別所得税含む)の譲渡所得税がかかります。

ただし、NISA対象の投資信託であれば非課税なので、対象商品であるかどうかを確認してから購入しましょう。

NISA口座以外で購入した投資信託を解約して利益が出た場合は、確定申告が必要です。ただし、「源泉徴収ありの特定口座」を利用した場合は利益から自動的に源泉徴収が行われるので、確定申告は不要です。

解約手続き不要で換金できるETFやJ-REITが便利

「投資信託の解約請求や買取請求が面倒」という人には、ETF(上場投資信託)やJ-REIT(上場不動産投資信託)をおすすめします。

どちらも投資信託を上場することによって、株式と同じようにリアルタイムで売買ができるようにした商品です。

1.ETFは東京証券取引所に上場している投資信託

ETFは、東京証券取引所に上場している投資信託です。

組み入れている資産は株式、債券、商品(コモディティ)などさまざまです。2024年1月に、ビットコインを組み入れた投資信託が米国の証券取引委員会で承認されて話題になりました。

運用した収益の中から分配金として配当する「分配型」と、配当を行わず元本に組み入れて複利運用する「無分配型」のファンドがあります。

ETFを売却する際は、解約ではないので信託財産留保額はかかりません。

2.ETFの売買方法

ETFは株式と同じく、リアルタイムで売買することができます。

売買単位は1口、10口、100口など銘柄によって異なります。1口当たり数百円で購入できる銘柄もあるため、初心者でも投資しやすい商品といえるでしょう。

ETFの中でも特に出来高が多く、主力銘柄である「NEXT FUNDS日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信」と「NEXT FUNDS日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信」はどちらも1口単位で売買できます。

3.J-REITとは不動産に特化した投資信託

J-REITは、東京証券取引所に上場している不動産に特化した投資信託です。

組み入れている不動産はオフィスビルや一棟マンション、商業施設、物流施設などの大型物件です。

保有不動産を運用して得た収益のうち、経費を差し引いた純利益のほとんどを、投資家に分配金として支払います。

4.J-REITの売買方法

売買方法はETFと同じです。ただし、1口当たりの価額はETFよりも高く、最も安い銘柄でも数万円です。そのためか、売買単位は原則として1口に設定されています。

投資信託の解約で失敗しないための3ヵ条

投資信託の解約で失敗しないためのポイントを紹介します。以下の3つは特に基本といえることなので、心に留めておきましょう。

1.目先の値上がり・値下がりですぐに解約しない

投資初心者は、購入した投資信託が狙いどおり上がると「早く利益を確定したい」と思い、すぐに解約してしまうことがあります。

逆に、値下がりすると「もっと下がるのではないか」と不安になり、手放してしまう人もいるでしょう。投資信託は資産の成長を長期的に目指す投資商品なので、短期での解約は避けるべきです。

2.新しい投資信託が出ても目移りしない

投資信託は、次々に新しい商品が販売されます。先ほど紹介したように、ビットコインなどを組み入れたETFが販売されると、目移りして買いたくなるかもしれません。

余裕資金で新しい商品に投資するならよいのですが、それを買うために成長している保有中の投資信託を解約することはおすすめしません。

運用成績の良いファンドであればさらに成長する可能性が高いので、みすみす大きな利益を取り損ねることになりかねません。

3.ポートフォリオを組んで運用する

ポートフォリオ
※画像は編集部にて作成

短期間で解約したくなる人は、ポートフォリオを組んで運用すると目先の値動きに左右されにくくなります。

グラフのように国内外の投資信託と国内外の債券を25%ずつ保有し、前後5%の変動までを許容範囲とすれば、比率を超えるまで保有を続けやすくなります。

許容範囲を超えたら解約または購入し、設定時のバランスに戻せばよいのです。

遺産相続における投資信託の評価方法

相続する遺産の中に投資信託がある場合は、どのように相続税評価額を算出したらよいのでしょうか。評価方法は上場の有無によって異なります。

上場しているETFやJ-REITなら、証券取引所で取引された価格で評価できるので簡単です。採用する価格は、以下の4つのケースで最も低いものを選べます。

1. 被相続人が亡くなった日の終値
2. 被相続人が亡くなった月の終値の平均価格
3. 被相続人が亡くなった月の前月の終値の平均価格
4. 被相続人が亡くなった月の前々月の終値の平均価格

非上場の投資信託は、相続発生時の1口当たりの価額に口数を掛けて算出した価格から、相続した日に解約したものとしてかかる源泉徴収税額と信託財産留保額を差し引いたものが相続税課税評価額になります。

投資信託は長期投資が基本、余裕資金で運用しよう

投資信託の解約について詳しく解説しましたが、投資信託は長期投資が基本です。長期間保有して大きく育てるのが投資信託の醍醐味なので、頻繁に解約することはおすすめしません。

投資信託を長期保有するための秘訣は、余裕資金で購入することです。

数年後に使うお金を一時的に運用すると、お金が必要な時に値下がりしていれば損切りして換金することになります。使う予定のお金と投資するお金は、区別しましょう。

新NISAのスタートで非課税枠が拡大し、投資信託に投資する環境は整ったので、余裕資金で購入して大きく育ててほしいものです。