不動産投資を始めようと物件を探し始めると、必ず目にするのが「利回り」という数字です。「利回り10%超え!」といった魅力的な広告を見ると、思わず心が動かされるかもしれません。
しかし、高利回り物件には注意も必要です。この記事では、不動産投資における「利回り」の基本的な知識から、高利回り物件に潜む罠、そして利回り以外に確認すべき重要な指標まで解説します。
- 広告の「表面利回り」と手残りを計算する「実質利回り」の決定的な違い
- 「高利回り=お宝物件」とは限らない理由と3つの注意点
- 利回りの数字だけに騙されない、投資の安全性と効率性を測るための重要指標
不動産投資の「利回り」とは?
そもそも、不動産投資における「利回り」とは何でしょうか。簡単に言えば、投資した金額に対して、どれくらいの収益が得られるかを示す割合のことです。
銀行預金の「利率」に近いイメージですが、不動産投資の利回りは計算方法によって大きく2つの種類に分けられます。
広告などでよく見る「利回り」と、投資家が実際に手元に残る利益を計算する「利回り」は異なります。この違いを理解しておくことが大切です。
表面利回り(グロス利回り):物件の収益性を大まかに把握する指標
表面利回りは、物件の販売価格に対して、年間の家賃収入がどれくらいあるかを示す簡易的な指標です。計算式は以下の通りです。
表面利回り(%) = 年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100
例えば、物件価格5,000万円、年間の家賃収入が300万円(月25万円)の場合、表面利回りは「300万円 ÷ 5,000万円 × 100 = 6%」となります。
表面利回りのメリットは、計算が非常に簡単なことです。不動産ポータルサイトなどに掲載されている「利回り」は、ほとんどがこの表面利回りを指しています。異なる物件の収益性を大まかに比較する際に便利です。
しかし、表面利回りには不動産投資にかかる諸経費が一切考慮されていません。不動産を運営するには、固定資産税、管理費、修繕積立金、火災保険料、賃貸管理手数料など、さまざまなコストが継続的に発生します。
実質利回り(ネット利回り):手元に残る利益をより正確に測る指標
実質利回りは、年間の家賃収入から実際に発生する諸経費を差し引いた「実質的な収益」を、物件価格に「購入時の諸経費」を加えた「総投資額」で割って算出する指標です。
実質利回り(%) = (年間家賃収入 - 年間諸経費) ÷ (物件価格 + 購入時諸経費) × 100
購入時諸経費には、仲介手数料、登記費用、不動産取得税、ローン事務手数料などが含まれています。また、年間諸経費には前述の管理費、修繕積立金、固定資産税などが含まれます。
実質利回りは、計算に手間がかかるため広告に掲載されることは稀ですが、投資家が手元に残るリアルな利益を測る上で最も重要な指標です。
表面利回りが高く見えても、築年数が古く修繕費がかさむ物件や、管理費が高い物件は、実質利回りが極端に低くなるケースがあります。
表面利回りと実質利回りをシミュレーション
表面利回りと実質利回りでは、具体的にどれくらいの差が出るのでしょうか。同じ物件を例に、両方の利回りをシミュレーションしてみましょう。この差を知ることが、不動産投資の第一歩です。
物件価格5,000万円、家賃25万円のワンルームマンションの場合
以下の条件でシミュレーションを行います。
物件価格:5,000万円
家賃:月25万円(年間家賃収入:25万円 × 12ヶ月 = 300万円)
購入時諸経費:物件価格の7%(350万円)
年間諸経費:家賃収入の20%(管理費、修繕積立金、固定資産税、賃貸管理手数料など。300万円 × 20% = 60万円)
1. 表面利回りの計算
表面利回り = 300万円(年間家賃収入) ÷ 5,000万円(物件価格) × 100 = 6.0%
2. 実質利回りの計算
実質利回り = (300万円 - 60万円) ÷ (5,000万円 + 350万円) × 100 実質利回り = 240万円(実質収益) ÷ 5,350万円(総投資額) × 100 ≒ 4.48%
いかがでしょうか。広告で利回り6.0%と謳われていた物件が、実際の手取りで計算すると実質利回り4.48%となりました。その差は1.5%以上にもなります。
なぜ実質利回りで判断すべきなのか?
上記のシミュレーションで示した通り、表面利回りと実質利回りには乖離が生まれるのが普通です。特に、以下のような物件は差が大きくなる傾向があります。
・築年数が古い物件
修繕積立金が年々上昇したり、突発的な修繕費がかかったりするため、年間諸経費が高くなります。
・管理費が高い物件
タワーマンションや共用施設が充実したマンションは、管理費が高額になりがちです。
・地方の物件
物件価格が安いため表面利回りは高く見えやすいですが、空室リスクが高く、実質的な家賃収入が想定を下回る可能性があります。
不動産投資は、購入して終わりではなく、長期にわたって運営していく事業です。運営コストを無視した表面利回りだけで判断してしまうのは非常に危険です。
銀行から融資を受けて物件を購入する場合、返済額は固定ですが、経費は変動します。経費の見積もりが甘いと、家賃収入から経費とローン返済を支払ったら、手元に現金が残らない「赤字経営」に陥るリスクさえあります。堅実な不動産投資を行うためには、必ず実質利回りを算出し、現実的な収益予測に基づいて判断することが鉄則です。
高利回り物件は危険?
「実質利回りで計算しても、なお高い利回りが出る物件なら良いのでは?」と思うかもしれません。しかし、相場とかけ離れた高利回り物件には、利回りが高いなりの理由、すなわち「リスク」が潜んでいることがあります。
空室リスク
不動産投資の収益源は家賃です。利回りの計算は、基本的に「満室時」を想定して行われます。しかし、高利回りを謳う物件の多くは、入居者付けに苦戦する要因を抱えています。
立地が悪い:最寄り駅から徒歩20分以上かかる、周辺にスーパーやコンビニがない、治安が不安視されるエリアなど。
需要の低い間取り:極端に狭い、使いづらい間取り、3点ユニットバス(風呂・トイレ・洗面台が一体)など。
競争力が低い:エリアの家賃相場に対して家賃設定が高すぎる、または周辺に競合となる新築物件が次々と建っている。
いくら利回りが高くても、入居者が決まらなければ家賃収入はありません。空室期間が長引けば、その間のローン返済や管理費はオーナーの持ち出しとなり、利回りは瞬く間に低下します。
高コストリスク
高利回り物件が「安い価格」で売られているのには理由があります。その代表格が建物の老朽化です。築年数が古い物件は、購入直後から想定外の修繕費が発生するリスクが高まります。
大規模修繕:外壁のひび割れ、屋上の防水工事、給排水管の交換など、数百万円単位の費用が必要になるケース。
設備の故障:購入してすぐに給湯器やエアコンが壊れ、交換費用が発生する。
修繕積立金の不足:中古マンションの場合、積立金が不足しており、一時金として数十万円を請求される。
これらの出費は、実質利回りを計算する際の年間諸経費を大きく超える可能性があります。表面的な利回りの高さに目を奪われ、これらの高コストリスクを見落とすと、キャッシュフローは一気に悪化します。
流動性リスク
不動産投資は、家賃収入(インカムゲイン)だけでなく、売却時の利益(キャピタルゲイン)も重要な出口戦略です。しかし、高利回り物件は、売りたい時に売れないリスクを抱えています。
先にあげたような問題を抱える物件は、あなたが魅力を感じなかったのと同じように、他の投資家も魅力を感じません。
立地が悪く、入居者がつかない物件
老朽化が激しく、多額の修繕費が見込まれる物件
銀行融資がつきにくい物件(耐用年数オーバーなど)
このような物件は、いざ売却しようとしても買い手がつかず、長期間売れ残る可能性があります。最終的に、購入時よりも大幅に価格を下げて「損切り」せざるを得ない状況にもなりかねません。不動産は「資産」ですが、現金化できなければその価値は半減します。
利回りだけで判断せず必ず見るべき重要指標
ここまで、不動産投資において「利回り」がいかに注意すべき指標であるかを解説してきました。「実質利回り」を計算し、「高利回りの罠」を回避することは最低限必要ですが、それだけで十分ではありません。
特に銀行融資を活用して不動産投資を行う場合、利回り以外の指標も組み合わせて、投資の「効率性」と「安全性」を多角的に分析する必要があります。
ROI (自己資本収益率)
ROI は、投下した「自己資金」に対して、どれだけの利益が得られたかを示す指標です。
ROI(%) = 年間キャッシュフロー(税引後) ÷ 投下自己資金額 × 100
不動産投資の大きな特徴は、銀行融資を使って大きな資産を運用できるレバレッジ効果にあります。例えば、5,000万円の物件を全額自己資金で買い、年間250万円の利益が出た場合、ROIは5%です。しかし、自己資金1,000万円、融資4,000万円で購入し、ローン返済を差し引いても年間100万円の利益が出た場合、ROIは「100万円 ÷ 1,000万円 = 10%」となります。
物件自体の利回りが低くても、少ない自己資金で効率よく利益を上げられれば、投資としては成功と言えます。ROIは、自己資金の運用効率を測るために不可欠な指標です。
CCR (キャッシュオンキャッシュリターン)
CCRは、ROIと似ていますが、よりキャッシュフローに焦点を当てた指標です。計算式はROIとほぼ同じですが、税金計算前のキャッシュフロー(家賃収入 - 諸経費 - ローン返済額)を使うことが一般的です。
CCR(%) = 年間キャッシュフロー(税引前) ÷ 投下自己資金額 × 100
不動産投資では、会計上の利益と、手元に残る現金は必ずしも一致しません。投資の目的が「手元の現金を増やすこと」であるならば、このCCRを重視すべきです。CCRが高いほど、投下した自己資金を短期間で回収できることを意味します。一般的に、CCRが10%を超えると効率の良い投資と判断されることが多いです。
返済比率
返済比率は、満室時の家賃収入に対して、年間のローン返済額がどれくらいの割合を占めるかを示す指標です。
返済比率(%) = 年間ローン返済額 ÷ 年間家賃収入(満室時) × 100
この比率が低いほど、キャッシュフローに余裕があることを意味します。例えば、返済比率が40%であれば、家賃収入の60%が経費の支払いや手残り分に充てられる計算です。
逆に、この比率が高いと、少しの空室や家賃下落、あるいは金利の上昇があっただけで、キャッシュフローが赤字に転落するリスクが高まります。銀行が融資審査を行う際にも、この返済比率を重視します。
まとめ
今回は、不動産投資の利回りについて、その種類から高利回り物件の危険性、そして利回り以外に見るべき重要指標までを解説しました。
不動産投資は、ミドルリスク・ミドルリターンの長期的な事業です。目先の高い利回りに飛びつくのではなく、リスクを正しく把握し、詳細なシミュレーションを行うことが成功の鍵となります。
